2012年2月18日、最近話題を呼んでいる「ゲーミフィケーション」に関するカンファレンス「ゲームのちからで世界を変えよう会議 Offline Meeting Vol.1」が、「ゲームのちからで世界を変えよう会議」主催で開かれた。講演・ディスカッションを含め、3時間以上の長丁場で大盛況の内に終わった講演を、ねとぽよが以下にレポートする。

 

講演内容は、
http://www.ustream.tv/channel/powerofgames
から視聴可能。

1.「ゲームのちから」で世界を変える

会議主催のNoah氏も驚くほどの盛況ぶりだった——参加者多数のため、参加は早々に締め切られ抽選となった、このカンファレンス。ゲーム関係者のみならず、「ゲームの力で、自分たちのビジネスをどうにか変えることができないか」という熱意を持つ、教育業界・IT業界、その他多くの産業に携わる多種多様な人々が集まり、会場のキャパシティを大幅に超えた人数が参加した。

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「ゲームの力で世界を変えよう会議」について解説する主催者のNoah氏。ゲーミフィケーションだけでなく、シリアスゲーム、ARG、ゲームニクスなど、「ゲームのちから」を実社会に活かす方法について広く話し合う場の提供を目指した団体だという。

 

2.井上明人氏講演「いま、Gamificationを問うこと」

最初の講演は、国際大学GLOCOM研究員の井上明人氏が担当した。井上氏は2012年1月25日に「ゲーミフィケーション」を上梓した、気鋭のゲーム研究者。自身でもwebサイト「critique of games」を運営し、ゲーミフィケーションの発想を取り入れて楽しみながら節電を行えるゲーム「denkimeter」の設計も行っている。

井上氏によれば、「ゲームを使って世界をよくする」という視点で「広義のゲーミフィケーション」を考えると、実はその流れは長くからあり、1980年代頃には発生していたという。だが、ここで重要なのは、この2010年頃から展開が山場になっていることである。その要因として井上氏は、スマートフォンなどのデバイスの登場により、「コストの低下によってゲーミフィケーションを設計しやすくなった」ことを挙げる。

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ゲーミフィケーションでは、何かしらのセンサーやメーターで可視化された数値を使うことが多い。例えば、井上氏の設計した「denkimeter」も、家にある電力メーターの数値を毎日計り、節約した電力の「数値」がどれくらいかを競い合えるという要素がある。その点、スマートフォンにはGPSや振動センサなど、それこそ日常のあらゆることを、ゲーミフィケーションに必要な要素として「可視化・数値化」するための機能が入っている。しかも常に携帯しているため、日常のシーンと繋がりやすい。井上氏はこの普及を低コストでゲーミフィケーションを導入できるようになった大きな要因としている。

海外・国内の個々のゲーミフィケーション事例紹介を挟みつつ進んだ講演に、会場の参加者の熱意が高まっていくのを筆者は感じた。井上氏の講演も、単に「ゲーミフィケーション」の紹介に留まらず、この手の講演では通常は聞けないような、「ゲームそのもの」を解き明かす「ゲームとは何か」という話へと向かっていった。

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井上氏の「ゲームには“アート”と“技術”の側面がある」という話には、講演後の質疑応答でもじぴったん作者の中村氏などから活発な意見が交わされた。

最後に、井上氏は「日本のゲーム産業は、アメリカやヨーロッパに抜かれているかもしれない。しかし、ユーザーの歴史や競技人口という意味では日本にチャンスがある。この場にいる人を含め、実際にゲーミフィケーションに取り組み、みなさんに成功事例をつくってほしい」と締めくくり、講演を終えた。

 

3.魚岸智弘氏講演「ゲーミフィケーションを実践してみよう」

続く講演は、株式会社ゆめみにて2010年からソーシャルゲームの企画・設計・運営に携わり、webサイトgamification.jpにて記事も執筆している魚岸智弘氏。今度はゲーミフィケーションを活用したビジネスの最前線で活躍している立場から、ゲーミフィケーションの実践について講演を行った。

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ゲーミフィケーションは、サービス設計で当たり前のことを着実にこなしつつ、ユーザーが気持ちよく次の行動できるように、促してあげるための手段なのだ、と語る魚岸氏。

魚岸氏は、まず「○○円払って有料会員になってください」とWebサービスで要求するのは、現実に喩えるなら初対面の人にいきなり“結婚してください!”と申し込むことに近いと語る。重要なのは、「敷居の低い順番」に「ユーザーの欲求を満たす」ような形で目標を達成できるように設計することであり、そこで活躍するのがゲーミフィケーションであるとのことだ。

その際に、モチベーションを維持しながらサービスの継続利用を促す仕組みを、ゆめみでは「プレイサイクルデザイン」と呼んでいる。特に魚岸氏は、ゲームにおける「チュートリアル」要素の重要性にも注意を促した。ゲーミフィケーションのデザインに、従来のゲームのノウハウが役に立つ可能性を感じさせる話であった。

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魚岸氏は、講演の中で最後まで自身のビジネス経験で培った重要なノウハウを惜しむことなく放出していた。司会者から「それ喋っていいんですか?!」という声が上がる場面もあり、会場からはゲーム関係者・Webサービス事業者などから、熱心な質問が飛んでいた。

 

4 .ディスカッション

井上氏、魚岸氏の両氏の講演の後には、会場全体を含めたディスカッションも行われた。twitterハッシュタグ#pogmsでの当時のログや、カンファレンスのustream録画を見て頂けるとうかがい知ることができると思うが、ディスカッションでは、参加者から止まることなく質問がなされ、非常に熱気のあるものとなっていた。

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ディスカッションでは、これからのゲーミフィケーションを考える上でキーになると思われる質問が多数あげられた。ここではQ&A形式でそれらのいくつかを取り上げたい。

 

Q:ゲーミフィケーションの手法が確立されるにつれ、技術のコモディティ化が起きる。そうなってくると、新しい手法をパッケージ化していかなければならないのでは。もし新しいゲーミフィケーションの手法があったら教えて欲しい。

 

魚岸氏:たしかに、アメリカで確立されてるポイントやバッジという手段を使いまわすのは今後厳しい。日本の既存のソーシャルゲームが人を引き付けてハマらせているように、海外より優れている部分を抽出し、新しい手法を作って提供することが有効ではないか。また単体の手法ひとつとして提供するのではなく、バッジ+ポイントといった形で組み合わせて別のモノを作る方法もあるだろう。

 

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会場には、有名ブロガーの@amachangさんもいて、質問を投げかけていた。

 

Q:ゲーミフィケーションで解決できないことはなにか?

 

魚岸氏:本質や中身のないサービスを無理やり楽しませること。

 

 

Q:ゲーミフィケーションに、これまでゲームで培ってきたノウハウを本当に適用できるのか? 井上さんの著作を読む限りでは、言わばゲーミフィケーションはデジタル技術によって現実自体がゲームのプラットフォームになるという話。しかし、プラットフォームが変われば、ゲーム自体の設計方法も当然変わるはず。

 

井上氏:ゲームの発達史を考えると、70年代のコンピュータゲームを構築できたのはアナログゲームのノウハウの貢献があったから。また2Dゲームから3Dゲームへの進化やオンラインゲームの発達を考えても、ゲームの進化には、既存の様々なノウハウを適用しつつ新しいノウハウを生み出す流れがある。これまでのコンピュータゲームのノウハウを持つ人はやはり一番強いのではと思うが、これからのゲーミフィケーションで活躍するのは、既存のゲームノウハウと新しい考えを絶妙なバランスで持つ人であるかもしれない。

 

 

5.筆者なりの感想

ディスカッションでの井上氏の応答を見るに、ゲーミフィケーションは、「ゲーム」という領域に留まる問題ではないのだ。だからこそ、今回の会議には多種多様なバックボーンを持つ人たちが集まり、それぞれの視点から非常に濃密な意見交換がなされたのではないか。

例えば、井上氏は、ゲーミフィケーションの導入事例として、酵素の構造を整えるパズルゲーム「foldit」や、英ガーディアン紙の「地元選出議員の経費を調べよう」プロジェクトを紹介した際、それらのアイデア自体は非常に優れているとしつつも、「ゲーム」の部分が詰めきれていないといった印象を受けたと講演で言っていた。

確かに、ゲーミフィケーションは海外で生まれたアイデアである。だが、それを「ゲーム大国」である日本で、井上氏の言うような「新旧のノウハウを持つ人々」が具体的に深めていく……そんな、まさに講演の開始時に代表のNoah氏がプレゼンしたような「ゲーム文化が非常に強い日本でしか出来ない」ことが出てくるかもしれない。

ちなみに、興奮冷めやらぬ間に終了した今回のイベントだが、実はこのミーティングを主催する団体「ゲームのちからで世界を変えよう会議」は、創設から3ヶ月も立っていない。それなのにこのような大規模な会議が開かれたのは、やはり「ゲームのちから」を人一倍よく知る日本人だからこそ、ゲームの秘めた可能性に感じるものがあったためかもしれない。

ディスカッションの後もなお、白熱した議論を懇親会の場で続けていた人たちもいた。今回の会議の参加者の誰もが「ゲームはビジネスを、そして世界を変える」と確信したのではないだろうか。少なくとも、筆者はそう感じた。

3時間超えのカンファレンスということで、紹介された事例などをこの記事で全て取り上げることは難しい。ゲーミフィケーションに関するさらに広い事例や深い内容を学びたい人は、井上氏の著書「ゲーミフィケーション」や、株式会社ゆめみの運営するwebサイトの「gamification.jp」が参考になるだろう。ぜひとも参照していただきたい。なお、「ゲームのちからで世界を変えよう会議」は、既に第2回目のOffline Meetingに向けた準備を始めているという。発足3ヶ月と経たない時間で、これだけの講演を成功させた彼らの動向に、今後も目が離せない。

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