2012年4月15日、東京都中央区のリクルートメディアテクノロジーラボにて「ゲームのちからで世界を変えよう会議」主催による「ゲームのちからで世界を変えよう会議 Offline Meeting Vol.2」が開かれた。Vol.1が「基本編」だとすると今回は「応用編」の位置づけになり、「実践例」をベースに前回を上回るボリュームで議論が行われた。その模様を、ねとぽよがレポートする。

前回の内容はこちら⇒ゲームでビジネスを、そして世界を変える――「ゲームのちからで世界を変えよう会議 Offline Meeting Vol.1」速報レポート – ねとぽよ

【著者:kk】

1.ゲームのちからというアプローチ方法

ゲームのちからには数あれど、実際にプレイしたことがない人にその魅力を伝えることはできるのか。そこで、やったことがなくても情熱を感じられるものとしてウメハラ動画を紹介するところから会議はスタートした。

「楽しくて熱中していたら、いつの間にか問題が解決していた」と、世界の問題をGamefulに解決していくことを目指す主催者のNoah氏。

 

 

2.ゲーミフィケーションをやってみた!CIMOSとは何か

会場の空気が温まったところで、株式会社シンクスマイルの五十嵐政貴氏、面白法人カヤックの三好氏と杉山氏の三人が登壇し、ゲーミフィケーションを組織の活性化に取り入れた具体例であるCIMOS(シーモス)の解説が行われた。

カヤックがつくり、シンクスマイルが導入したCIMOSとは、WEB上で「バッジ」をおくりあう社員同士の評価システムを指す。このバッジは、シンクスマイルの行動指針(バリュー)をもとに設定されており、そのバリューを実践したと感じた仲間にあげるものなのだと、五十嵐氏は説明する。バッジを意識して行動することは、バリューを意識することに繋がる。全社員は毎月20~40個されたバッジをもちいて、褒めること見えるカタチにして表していく。Facebookを通じて社外の人もバッジをおくることができ、五十嵐氏がリアルタイムで会場からバッジを受け取る様子も伺えた。尚、外部の人がおくれる数は月に1個という制限があるようだ。こうしてやりとりされたバッジは、半年に一度集計され、10個で1000円の給与加算があるなど、評価と連動したものとなっている。給料に反映させることについて杉山氏は「本当に実践するとは」と驚いたという。

10種類あるバリューバッジの獲得状況をグラフ化すると社員の個性を掴むことができる。「シンクスマイル社のコーポレートサイトであることを突き詰めた」と三好氏。

五十嵐氏は「CIMOSの導入によってコミュニケーションがより活発になった」と語る。「人を褒めるためによく見るようになる」好循環が生まれた要因は「会社のノリと合致したことが大きい」と考えていた。NHKのクローズアップ現代で報じられて以降、このシステムに関心を持つ企業は複数生まれたが、現段階では他社への販売をしていない。CIMOSはあくまでシンクスマイルの理念を元に作られたものだから、他社に適用する際にはまた「一から組み直す必要がある」との見解を示していた。

講演中、司会の久保田氏がTwitterのハッシュタグから参加者の声を拾うことが度々あり、ねとぽよの質問も取り上げられた。象徴編集長の斉藤は、鈴木健の「ゲームプレイ・ワーキング」で紹介されていたバリュープレス社の事例との違いについて問い、それに対して五十嵐氏は「バッジが理念と結びついていること」を重視し、報酬もおまけ的な要素であることを強調した。

 

3.デジタルゲームの原点に学ぶゲームデザイン

続いて、「ことばのパズル もじぴったん」シリーズの元・プロデューサーである中村隆之氏の講演となった。ゲーム開発の最前線で働いた経験から、「プロとしてのゲームデザイン」の知恵と、その活用のヒントが語られた。

ルールをつくれば何でもゲームになる。「ゲームデザイン≒ルールデザイン」だと冒頭に述べる中村氏。

中村氏は、プロは開発を通じて経験的に「構造や要素のほんの少しの差がゲームの楽しさを左右すること」を理解しており、そこに完成形しか見られないアマとの差があると語った。具体例として、もじぴったんの製作過程での細やかな調整が一般ユーザーの反応にダイレクトに響いていく様子をあげ、クリアには「生理的な快感」を伴う必要性があることを説いた。

かつてのゲームは二人以上で遊ぶものが多く、そこには勝ち負けが存在した。しかし、コンピュータの登場以降、一人で遊べるものが増え「勝負の楽しさ以外の楽しさ」が重視されるようになった。コンピュータゲームの基本は「一人でも楽しい」ことであり、「複数人で遊ぶと楽しいのは当たり前」なのだという。そして、中村氏はアーケードゲームのヒットする条件に注目する。「遊ぶ前に楽しそうと思わせる」「始めて30秒で理解し楽しいと感じる」「3分でゲームオーバーになる時にはもう100円いれたくなる」ーーここにゲームデザインの要素が凝縮されている。筐体デザインで視界に入れ、アトラクトデモで「自分でもできそう」と思わせる。手探りで遊んでも味わえる楽しさがあり、ルールを把握しより楽しくなった頃にゲームオーバーになる。人は行動して快感があると、快感を求め行動するようになる。面白いゲームは、この循環を作り出している。

中村氏は、ゲームの最小限の手段に快感があることが大事だという。対CPU戦では勝負の快感のかわりに達成感が重視されているが、達成感を得るためにはストレスを与えなければならない。このストレスで脱落することを防ぐために、様々な行動に快感を与えるよう設計する。失敗に快感を仕込ませることもポイントで、ゲームの利点に何度ミスをしても取り返しがつくことをあげた。

「失敗をしても楽しい」のであれば、ユーザーは失敗を繰り返しながら学習し上達する。それが古き良き時代のゲームデザインなのだとし、ゲーム化による問題解決においても、ゴール設定だけでなくプロセスそのものにも快感を得られるように考える必要があるのではないかと語った。これは、「成功したから幸福」なのではなく、「幸福を感じていたらいつの間にか成功していた」という考えに近い。中村氏は、ゲーム化の本質は「したくないけれど(結果)のために仕方なくする」ことから「(過程を)楽しんでいるうちに自然と成果が得られた」とする価値観の変化を世の中が求めている兆候ではないかと捉えていた*1

ゲームデザインとはArtsであり、中心にはおもてなしの心があると中村氏は考える。おもてなしの観点からすれば、ハマる仕組みと同じくらい、やめ時を用意することも重要になってくる。最後に中村氏は、映画スパイダーマンの「偉大な力には、偉大な責任が伴う。」というセリフを引いて「ゲームのちからには確かなものがある。だからこそ今後のゲームデザイナーは倫理観を持たなければならない」と講演を締めくくった。

 

 

4.トークセッション+ディスカッション

講演の後には、中村氏、五十嵐氏、三好氏、杉山氏によるトークセッションと、会場全体を含めたディスカッションが行われた。トークセッションでは、テレビ放映の後日談や、CIMOSの制作秘話等が語られ、ディカッションでは、前回と同様に参加者からの質問がとまることはなかった。以下、いくつかの質問をピックアップしたい。

 

Q:バッジのシステムは、すぐフィードバックがかえってくるのが良いところだと思う。これをビジネス以外でも応用する予定はあるのか?

五十嵐氏:ある。新子(シンクスマイル社代表)が子育てに使えないかと考えて、サンクスバッジをつくり、家族間で渡しあうようにした。総数50個で家族旅行、長女が10個集めれば玩具といった具合に、家族全体と個人の目標を設定して実践したところ、上手くいっているとのこと。この応用可能性は非常に感じている。

 

Q:バッジを受け取るよりも、与えることに気が向かうようになるという話が腑に落ちた。そうすると、今、外の人から受け付けるようになっているとのことだが、逆に外に与えてみたら面白いのではないか。

一同:面白そうですね。

 

Q:CIMOSの運用によってトラブルはでなかったのか。総務などからしたらハードモードという印象があるが、その辺りの調整とか工夫はどうなっているのか。

五十嵐氏:トラブルは目に見えた問題は発生していない。人事評価も元々自身の業務だったこともあり、特にタスクが増えたとも思っていない。個人の気質によるものかもしれないが、楽しんでいるためCIMOSの運用による負荷は感じられなかった。

 

Q:ネガティブなバッジを叩きつけたくなる時はないか。

五十嵐氏:ネガティブなバッジは用意していないのであげようがない。デザインの力や、バッジの意味をしっかり理解しておくるようにしているので、ネガティブに機能することもないと運用して分かった。例外として、ナイスアクションバッジをおくった後にサンクスバッジをもらうケースがあり、それは違うだろうと思った(笑)

 

Q:太田肇さんによる「承認とモチベーション」という本があり、本日聞いたことは、その内容と合致していた。社会心理学的な知見をもっといれられるのではないかと思った。

中村氏:ゲームデザインを教えるにあたって、最近は教育心理学が非常に参考になっている。人が自発的に楽しみながら学習することに、これらの共通点があるのは当然のことだと思っている。

司会:ゲームという実践の場があって、そこにアカデミックの知見がついてくるのは美しい流れですね。

 

 

5.筆者の感想

筆者はVol.2が初参加になる。前回参加したメンバーからVol.1が大盛況だったことを聞いていて、「応用編」ではどのような議論が交わされるのだろうと内心ハードルが上がっていた。率直に言うと、最初のゲーミフィケーションの実践例の話では、CIMOSというシステム以上にカヤックとシンクスマイルという関わった企業自体の特殊さに関心がいった。魅力的な企業が、ゲームのちからによってより磨きがかかる。この好循環は素敵なことであり、普遍性のある話である。

CIMOSは仕組みも成功要因も共にシンプルだった。カヤックのネジがとんだ社風の話や、五十嵐氏の軽快なトークで楽しい時間をすごせたが、肝心の「ゲームのちから」に関する話は、イージーモードだったように思う。つまり、いささか刺激が足りなかった。斉藤が指摘したように、鈴木健の論稿では、よりラディカルなゲーミフィケーションの実践例が載っていて、ゲームの可能性についても、複雑な議論が展開されていた。久保田氏があの業務システムを最近やめてしまったといっていたが、その詳細は是非知りたいと思った。

その点、中村氏はハードモードな要素を散りばめつつ分かりやすい話へと落とし込んでいて面白かった。ゲームの本質に複雑さの縮減があるが、その複雑なものが圧縮されていく様子は魅力的に映る。「楽しい失敗」を気軽にできることが、ゲームの特性であり、ゲームのもつ驚異的なポテンシャルであることは今回のイベントでも繰り返し確認された。現実/ゲームで区切る限り、この「ちから」を取り入れることは難しそうである。けれども、そこにこそゲーミフィケーションの可能性はあり、現実の概念に変化の兆しがあるのだと筆者は感じた。

Vol.1の議論を下敷きに、Vol.2ではより難易度があがるのかと身構えていると、実践編は現実に即しているだけあり、むしろ理解しやすいものになっていた。やはり気になったのは「地力」があってこそ、ゲームのちからが加算されるということであり、その逆はまだ目立った事例がなさそうだということだった。ところで、「ゲームのちからで世界を変えよう会議」は、立て続けにイベントを行い、多くの人を巻き込んで、身の回りの世界を実際にかえている。つまり好循環に入っているのだが、この調子でサイクルが拡大していくとどうなるのかと期待が膨らんだ。

 

※ 上のイラストは「ゲームのちからで世界を変えよう会議」所属のデザイナー兼イラストレーターさんにいただきました! ありがとうございます!

 

 

 

 

 

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(参考記事)

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*1:[http://www.ted.com/talks/lang/ja/shawn_achor_the_happy_secret_to_better_work.html:title:bookmark]

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kk

kk

ライター。漫画と映画と賭け事が好きです。ねとらぼもよろしくお願いします。

 

▼活動履歴▼

2004年 はてな民になる
2005年 あずまん読者になる
2007年 ニコ動と2chに課金。ポーカーも教わる
2010年 ニコ生にはまる
2011年 ねとぽよに参加。主にソシャゲ系の記事書いてます