【構成:いしや】

今年の5月14日、株式会社リクルートの実証・研究機関であるメディアテクノロジーラボからこんなiPhoneアプリがリリースされた。

恋するめざまし -起きれば起きるほど、あの子との距離が近くなる-

ダウンロードはこちらから

内容については、上のサイトにある説明文を見てみよう。

”「恋するめざまし」とは、時間通りに起きれば起きるほどキャラクターとの親密度が 増していく新感覚萌え目覚ましアプリ。アプリの使い方はとっても簡単。まずは、 好きなキャラクターを選んで、あとは普通の目覚ましと同じように起きる時間を セットするだけ。時間になったら彼女が起こしてくれるよ。時間通りに起きる事が できたら二人の距離は縮まっていき、ただの幼なじみから、恋人へ、更にはラブラブ な関係に変化していく。ただし、時間通りに起きられないと彼女がすねちゃうから 気をつけてね。クリアしたアラームボイスはボイスページにストックされるから、 気に入ったボイスは何度でも聞けちゃう。さあ、今日から大好きな彼女に毎朝起こ してもらう、ラブラブモーニングライフを始めよう。”

 

なぜあのリクルートがこんなアプリを……。

気になったぼくたちは、ゲームの持つ力を現実に活かしていこうとする団体「ゲームのちからで世界を変えよう会議」の代表・Noahさんと、銀座にあるMTL(Media Technology Labs)を訪れた*1

さて、その場でリクルートの人に聞いてみると、実はこのアプリ、MTLが主催している「TechCafe for Students 2011 winter」という学生限定の実装&企画イベントで最優秀賞(1位)をとったチームに、実際に制作してもらったものだという。「金は俺たちが出す(キリッ」(by リクルート社)ということだったから、実に太っ腹だ。

というわけで、今回はそんな最優秀賞獲得チーム「さみしがりや」のメンバー、坂井悠紀子さん・多湖大師さん・新谷よしみさん、及び主催者のMTL・鈴木慎介氏が、このアプリについてNoahさんと交わした会話をお届けしたい。

議論は、アプリのコンセプトから、ゲーミフィケーションを用いた改善案まで、多岐に亘るものとなった。

 

1.このアプリが開発された経緯

■ 「“不快”で起きるのではなく、”楽しみ”で起きるような世界観を作りたかった」

Noah ゲーミフィケーションという視点で、このアプリの良かったところを言うと、まずボイス集めのようなコレクション要素ですね。

ゲーミフィケーションの世界には、「バートルの4分類」という、プレイヤーには4種類のタイプがいると主張する理論があります。その分類の一つに、「アチーバー」という人たちがいるのですね。彼らは強くなっていくことに喜びを覚えるタイプで、何かをコレクションしてコンプリートしたり、RPGで自分のレベルを99まであげたりするようなことが嬉しいのです。僕はまさにその「アチーバー」なので、このコレクション要素は結構刺さりました。

あと、このアプリは、「睡眠欲 VS 萌え」の構造になっているんですね。睡眠欲って結構強くて、朝は少しでも長く寝ていたいわけです。そのときに、「起きなければ」という義務感で起きるよりは、「起きると楽しいことがあるから起きたい」と思いたい(笑)。そこの工夫には感心しました。

 

 

多湖 最初に考えたのが、まさにそこです。「不快」で起きるのではなく、「楽しみ」で起きるような世界観を作りたかったんです。

元々は、どんなアプリが受けているのかをリサーチする中で、目覚ましアプリに目をつけたのですが、TC4Sのコンペに、「身近な誰かをハッピーにできるようなサービス企画」というのがあったのですね。目覚まし時計は、やはり不快な音に感じるものです。そこで目覚ましをハッピーにできればいいんじゃないだろうかと思ったのが、この企画の始まりでした。そのときに、「声」を使って目覚ましをするのがよいのではないかと思いついたのです。

Noah 先に不快さによる目覚ましを解消したいというのがあったのですね。

多湖 それに、たまたま彼女(※ 坂井さんのこと)がアニメなどが好きだったこともあり(笑)、こういう形になりました。

 

■ 「使う人が明確にいるところが、彼らが優勝した決め手でした」

Noah 坂井さんは「萌え」に興味があるのですか。

坂井 そうですね。アニメも見ますし、アイドルも好きです。

——ちなみに、好きなアイドルは(笑)?(※ 以下、文頭に傍線が入った質問は、ねとぽよによるもの)

坂井 ももクロです! 以前はよく握手会にも行ってました。

サービスを作るときには、ユーザーがどういう風に使うのかイメージできないとだめだと思うのですが、一番イメージしやすいところに私がいたというのはあります。

毎朝きちんと目を覚ましていると、ツンデレヒロインに告白されたりする。

——ちょっと意地悪な質問をすると、「萌え」に寄ったことでユーザー層を絞ってしまったという見方も出来ますが。

坂井 ふわっとしたもので誰も幸せにできないより、ちゃんと対象を絞って、目の前にいる人たちを幸せにできる方がいいんじゃないかと思いました。

Noah 人間誰しも起きるわけで、本来は目覚まし時計はユーザーを選ばない(笑)。そうなると、確かに「目覚まし×萌え」に興味がある人は絞られています。でも、逆にそこの層の人は起きやすくなるかもしれませんね。

鈴木 審査する立場からすると、やはり使う人が明確にいるところが、彼らが優勝した決め手でした。あと、プレゼンの質も一番高かったのですね。実際に秋葉原に行って感想を聞いて、プレゼンのときに声を流していました。会場票も審査員票も一番でした。

Noah 全員納得の最優秀賞という感じだったわけですね。

■ 「ボイスは自分で作りました」

Noah 受賞後に実装となったのだと思いますが、このアプリって、やっぱり声優さんの声を入れているのが重要だと思います。実際に収録に行って声優さんに演技指導はしたのですか。

坂井 そうですね。音響の方がほとんど指示を出してくれたのですが、私自身が指示を出すこともありました。

——それは、実演してみせて……ですか?

坂井 声なんかは「こういうかわいい感じで!」って言うこともありました(笑)。ちなみに、キスするシーンのリップ音に関しては、彼(※ 多湖さんのこと)ともう一人の男性社員さんがリップ音を指導していました。

多湖 TAKE10以上いってます(笑)

坂井 今まで何も口を出さなかったのに、リップ音だけは「ちょっと湿り気が足りないよね」とか言い出して。

鈴木 完成形だけ聞いたんですけど本当によい湿り気で……。

坂井 そこはやっぱり私では駄目だったんですね(笑)

 

■ 「萌えさせ方にコツはあるんですか?」「まず、自分が萌えるかですよね!」

Noah このボイスの台詞って坂井さんが考えたんですか?

坂井 そうです。全部、私が考えたんですよ(笑)

Noah 萌えさせ方にコツはあるんですか?

坂井 まず、自分が萌えるかですよね! 自分がユーザー視点になって「あ、これいいな」と思うことです。

新谷 キャラクターの顔を実装するときに一番簡単なのは、「起きるときはこの顔」、「怒ったときはこの顔」と指定してしまうことなんです。だけど、今回はちゃんとセリフごとに顔の指定がありました。こだわりがあるんだなと思ったところですね。

坂井 そこはこだわりました。絵は少ないんですけど、少ないながらにこのボイスにはこの顔だろう、と考えてやりました。

 

先日TwitterでMTLの人間がつぶやいて、世のギークの間で波紋を呼んだ”キラキラコメントアウト”。実は新谷さんのこのアプリのコードだったそうです……。

 

 

Noah 技術という点で一つ聞きたいのは、アプリを起動させっぱなしにしなければいけないところですね。これは技術上の制約ですか?

新谷 いえ、技術的には可能なのですが、「しなくていいよ」と言われたのでした。

坂井 世界観として、女の子と「一緒に寝る」というのがあるのです。だから、閉じることで、現実に戻してしまいたくなかったんです。めんどくさいと言われるのは事実ですが(笑)

Noah 確かに。「起こしてね」って言ってわざわざ閉じるか……と。

坂井 他の目覚まし系アプリも多くがそうなっているのですが、それはたぶん、そういう世界観を残しているからだと思います。

 

2.このアプリの美点・欠点

■ 「もう一回作るとしたら、世界観を入れたいです」

——このアプリで改善した方がいいなという点はありますか?

Noah 個人的には、起こす機能も良いのですが、例えば夜中の2時に就寝して朝の5時に起きているような生活の人には(笑)、「健康に気をつけてる?」とか「夜には寝るものだよ」とかうまく声優さんに言わせてもいいんじゃないかなと思いました。

あと、実はこのゲームって、ボイスをコレクションしようとすれば、5分後にセットし続けて起きたことにすれば、すぐに集められてしまうんですよね……。

もちろん、それはズルなのですが、ゲームとして興ざめしないためには、ズルができないようにすることも重要です。例えば、不自然な睡眠時間を設定している時には、やんわりと「おかしくない?」という趣旨のことを言わせることで、気まずい思いをさせずにズルをやめてもらえるようにしたら、いいかもしれないですね。

二次元美少女と一緒に寝る至福の時間

坂井 人の寝るタイミングって色々とあるから、それをやっちゃうと逆にユーザーにとって困ることもあるかなと思ったのでした。でも世界観でそういうのを出すのもいいなと思います。

Noah 皆さんはもっと時間があったら改善したかった点はありますか?

坂井 もう一回作るとしたら、世界観を入れたいです。やっぱり、夜にいきなり「起こすから」と女の子が来て、朝になったらいきなり「おはよう」と話しかけられても、「誰?」となるじゃないですか(笑)。

実は、他のダウンロード数があるオリジナルキャラクターの目覚ましとかには、ライトノベルが付いていたりするんですよね。既存のキャラクターを使えない場合には、そんな風にラノベやミニゲームで世界観作りをしたいです

——実は、ねとぽよでこのアプリをみんなに見せて、感想を聞いたんです。そのときにまず真っ先に出たのが、「ユーザーがこの子たちに起こされたいと思う動機がない」ということでした。ここを設計しないと、おそらくこのイラストにビビっとくるタイプの嗜好性を持った人にユーザーが限られてしまいます。

Noah ラノベは、まさにそこの動機を作るところなんですね。

——例えば、最初に登校場面があって、二人の女の子と会話して、そのあとにどっちを選ぶか決めさせるとかでもいいですよね。ギャルゲーの入り方みたいですけど。

坂井 私も「エンターキー押すのだるいな」って思いながらやってたんですけど、実はあれがあるからできるんだなと、これを作っていて気づきました。

 

■ 「時間通りに起きないと彼女が寝取られるとかの方が頑張るんじゃないかと(笑)」

——あと、ねとぽよで出たのは、もっとゲーム要素を入れてくれということでしたね。結局、萌え声で起こされても気持ちよくてそのまま寝続けちゃうんじゃないかというのもあって、だったら時間通りに起きないと彼女が寝取られるとかの方が頑張るんじゃないかと(笑)

 

一同 笑

 

——あと、こっちから起こすのはどうかという意見もありました。例えば、八時に一緒に起きようねって約束して、だいたいその彼女が起きる時間に五分くらいランダム性をつけておいて、彼女より早く起きることができたら何か点数がつく、とかですね。

坂井 それは面白いですね。なるほど。

——そういう形にすれば、彼女に勝ちたいから起きるという形になりますよね。さらに彼女のボイスや服がもらえるみたいなメリットをつけると、頑張るんじゃないでしょうか。話しながら、かなりゲーマーっぽい発想だなと思ってきましたけど(笑)

坂井 すごいゲームやられてるなって思いました。

——そういう要素があった方が、ゲームとしては自然かなという印象はありますね。

 

3.次回作について

Noah 次回作に期待しても大丈夫ですか?

坂井 もちろん、……したいなあ?(リクルートの人をみながら)

鈴木 お、やりましょうか。

Noah ガールズサイドとかどうですか?

坂井 本当ですか! じゃあ、私の趣味嗜好を全開に出します。

鈴木 また出すのであれば無料アプリで行きましょう。次はラノベも出しますか。

——いいですね。ちなみに、社会人が多い「ねとぽよ」での、このアプリを見ての結論は、「これを大学生がリクルートのお金を使ってやったのが、何よりすごい」ってことでした。

坂井 ありがとうございます!

Noah 企画を通す力、まさに社会では大事ですね(笑)

 

 

 

(了)

*1:『ゲームのちからで世界を変えよう会議』は、ゲームの持つポジティブなちからを、現実の問題解決に活かしていこうというコンセプトで作られた団体。「ゲームのちから」の活用手法の1つとして最近の「ゲーミフィケーション」に注目し、活発な議論を行なっている。最近では、「ゲーミフィケーション・Wiki(http://gamification.org/ja/)」の翻訳作業なども行い、積極的な「ゲームのちから」概念の普及に務めている。過去に行われたイベントについては、

を参照していただきたい。

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川口いしや

川口いしや

平日サラリーマン。週末ライター。早く会社辞めたい。グルメとかヤンキーとかについて考えるのが好きです。

 

▼活動履歴▼

1986年〜 山形県にある天童病院の駐車場で産まれる。
2011年〜 インターネットでナンパしてたら「ねとぽよ」にノウハウを書くことになって、今に至る。