「なりきり」という言葉を、ネットを使っていく中で目にしたことのある人はいるでしょうか――「なりきり」とは、掲示板やチャットで、アニメやマンガ、ゲーム、芸能人などになりきって、会話をすることです。なりきる対象は二次元から三次元まで様々なジャンルや作品が使われており、ユーザーは、ジャンルによって差異はあるものの、基本的には女の子が多数を占めます。そのため、いま初めて「なりきり」という言葉を聞いた人も多いかと思います。

なりきりユーザーたちは、別に掲示板やチャットにのみ生息するわけではありません。実は見渡してみると、ブログやメルマガ、さらにはTwitterやLINEなど様々なメディアで今日もおしゃべりを続けています。「なりきり文化」とは、女の子ウェブのほとんどあらゆるメディアに発見できるものであり、包括的な議論はいまだされていないと思います。

実際問題、例えば「メルマガなりきり」などは、キャラクターから自分の携帯に直接メールが来る感覚を得られる「よりリアルで、没入しやすいドリーム小説(※注1)」と見るべきではないかと、個人的には思っています。一概に「なりきり」と言っても、様々な遊び方がある可能性があります。そこで今回は、最もコミュニケーションを重視するタイプの「なりきり」、その中でも最もメジャーな、チャットでなりきりを行う「なりきりチャット」にフォーカスを当てて、そこで行われていたことを紹介してみようと思います。

 

 

なりきりは演劇なのか?

さて、「なりきり」という言葉から、一番連想しやすいのは「演劇」ではないでしょうか。確かに、なりきりはキャラクターを演じながら、別の相手と会話を積み重ねる中で関係を深めるためのツールとなります。「なりきりチャット」では、なりきる対象の名前や口調を使って、同じ作品や同じグループのなりきり仲間と一緒にチャットをします。キャラクターの口調や行動を真似して、その人を表現する、まさに演劇です。しかし、「なりきりチャット」を考える際には、この「演劇」の要素だけでは不十分なのです。

そもそも演劇は台本があり、その台本をなぞりながら1つの物語を作るものです。一方でなりきりチャットは、与えられた台本はなく、相手との会話のやりとりで、予期せぬ返答が返ってくることが前提です。多くのユーザーは、単なるおしゃべり目的で使っていました。

また、なりきりチャットにおける観客は自分自身です。観客が自分自身、というのは

 

  1. キャラクターを操作する自分
  2. 画面に表示されるキャラクター
  3. 発言の履歴を後追いする自分

 

が、すべて別にあることを指します。発話の瞬間は自分の気持ちを言葉にするのですが、画面に残されたログの発言者は自分ではなくキャラの名前となり、あたかもキャラクターがふるまっているように画面では見えて、その会話のログをコンテンツとして読めるのです。なりきりチャットで大切なのは、演技の上手さではなく、おしゃべりを通じて物語を一緒に作ることです。その意味で、「おしゃべり文化(※注2)」の1つとも言えます。なお個人的には、この「おしゃべりを通じて物語を一緒に作る」という特徴は、実は「なりきり文化」でかなり広範に見られるものではないかと思っています。しかし、物語を作るといっても、普通のチャットとは全く違います。なりきりチャットでは、キャラが喋るセリフだけではなくて、どのような動作をするかもチャットの文章に書き込むことが多いです。二次創作を読んでいるときに、キャラクターの姿や背景を思い浮かべるのと同じように、なりきりのキャラクターたちがどんな姿かを想像します。

 

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銀魂なりきりチャットの一部

 

なりきりにおけるおしゃべりの大切さを確認したところで、そろそろ、なりきりでどんなことを話題にしているか、気になりませんか?

「なりきり」と言われると、原作の世界観をそのまま使って、戦ったり恋愛をしたり、三次元のなりきりであればライブのバックステージで仲良くしている姿を想像し、テキストにすることを、「なりきっている」と考えてしまうのではないでしょうか。実は、そんなことはありません。

なりきりチャットのユーザーたちは意外にも、日常でよく見かけるような会話もします。もちろん、「バトルロワイヤル設定」「ハリーポッターに出てくるこの場所に集まっている設定」など、具体的な設定を設けるチャットもあります。二次元とオリジナルのなりきりでは、一緒に二次創作を作っていくようなチャットの仕方がメジャーです。しかし、会話の内容をのぞいてみると……「今日めっちゃ忙しくて、疲れてる……」とか「ケーキ食べてん、ええやろー」とか。原作には描かれないけど、そのキャラクターが普段の生活でしそうな話題であれば、頻繁に会話にのぼります。驚きですか? しかし、友達とするような、とりとめのない会話を延々と続けることが、上に述べたように根本的には「おしゃべり文化」である「なりきり」の大きな特徴なのです。このように、演劇していた感覚自体ほとんどなく、名前や口調、シチュエーションというデータベースを借りていただけだと、私は感じています。これはなりきりをしていた人は同じ感覚を持っているのではないでしょうか。役に没入するというより、自分がキャラの仮面をかぶる、キャラと同一化するイメージです。

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とある高校を設定にした、オリジナルキャラクターを使ったなりきり

 

 

擬似恋愛に発展する

しかし、一つある意味で大変に奇妙な振る舞いを、なりきりチャットユーザーたちはしています。実は、なりきりに特有な現象として、会話を重ねるうちに恋愛のような関係に至ることが多いのです。なりきり文化を知らない人は、大抵この話を聞いてびっくりするようです。しかし、チャットの注意書きに「恋愛禁止」「BLはお断り」「NLもBLも可」などと、あえて恋愛に関する注意事項が書かれているほどに、頻繁に起きることなのです。もちろん、中の人は女の子同士です。単なる女の子同士のチャットであれば、親しい友人になったとしても、恋愛にまで発展することはほぼないでしょう。つまり、そのような擬似恋愛はなりきりという行為のフィルターが生み出しているものなのです。

 

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あるオリジナルなりきりの、注意書きにある恋愛の項目

 

では「なりきり」というフィルターを通した恋愛とは何でしょうか。私なりに、自分の体験を踏まえて、考察してみます。

この擬似恋愛の特徴の1つは、ユーザーがお互いに元となる物語や設定、キャラクターのことを共有しているから、相手への好感度が高い状態から会話を始められることです。ふみコミュなどの普通のチャットでは、「こんー!何歳?どこ住み?」とお互いのプロフィールを共有してから、共通の話題を見つける段階が必要です。しかし、なりきりは違います。基本的には自分が選んだキャラクターと同じ作品(「銀魂×黒子なり茶」などもあるので、一概に1作品のみでのチャットとは言えませんが、少なくとも自分の知っている作品)のなりきりが相手になるため、初対面であってもキャラクターに対するイメージや好感度は高く、コミュニケーションのきっかけ作りが簡単なのです。

二次元だけではなく、オリジナルなりきりは設定や世界観の共有が、とてもしっかりしています。三次元を対象にしたナマモノでも、なりきる人へのイメージの差異はほとんどありません。特にこのジャンルでは最近になって、本人たちが腐女子ウケを狙ったような言動や行動をすることでファンを盛り上げている光景をしばしば目にします。そうしたライブでのMCがなりきりのネタになることも多いです。ナマモノは二次元の作品とは違って露出が多いので、その分かえってネタも共有しやすいかもしれません。

そして、もっとも重要なのは、先にも書いたように、なりきりは複数人で一緒に二次創作を作っていく感覚があることです。もちろん、なりきりチャットなどの多くのなりきりは、会話を投げかければその応答がある、という連句的な創作、もしくはリレー小説のようであり、1人では成立しないのですが、やはりそこにウェブにおける二次創作の記憶は流れ込んでくるのです。

ここで鍵になるのは、テキストになった会話の履歴を、なりきりのユーザーは後追いしていることです。彼女たちの多くが、会話のログを二次創作として読み返していたように思います。二次創作では、ドリーム小説でもBL小説でも、友情の描写よりは恋愛に発展する作品の方が圧倒的に数が多いです。そこでの想像力が、そのままなりきりユーザーに無意識に植えつけられているのではないか、と私は考えます。創作を読む中で育まれたときめきへの欲望は、なりきりにハマるきっかけの1つとなるのかもしれません。

このような恋愛を、私は「創作的恋愛」とひとまず名付けてみようかと思います。それは、自分ではないキャラクターになりきり、自らの会話のログを俯瞰的に読み返すことから生まれる恋愛です。なりきりにハマっていた当時の私に関して言えば、別に現実の恋愛をそのまま求めていたわけではありませんでした。いま思えば、男女の間に起きるめんどくさいことや寂しいこと、悲しいことをすべて排除した、幻のような恋愛を求めていたように思います。こんなユートピアは、インターネットにしかありません。それを擬似的にであれ実現できたのが、私にとってのなりきりでした。

……と書いてますが、そんな夢見る女の子たちのオフ会は、Twitterなどでよくみるオフ会とさほど変わりませんでしたw 今までチャット上で話していたのは、こんな女の子だったんだ、という第一印象。会話の内容もなりきりから離れ、なりきっているキャラの1ファンとして楽しく盛り上がりました。オフ会だけではなく、仲良くなると本当に友達のようにウィルコムで毎晩話したり、スカイプしながら、一緒にゲームしてる子もよくいました。

でも、初めて電話番号を交換して、相手の声を聞いたときのドキドキ感は今でも忘れられません。当時は見えない相手とコンタクトを取るのは少し不安でした。ネカマでもないし、本当に女の子なんだ……って。そこで仲良くなった子とは、自然と電話の回数も増えて、まるでネットに映る言葉遣いや雰囲気に恋する、遠距離恋愛のような、不思議な関係だった気がします。

 

色々と書いてきましたが、なりきりで疑似恋愛をするのは、様々な要素が組み合わさった結果であるように思います。「女の子ウェブとは何か? – ねとぽよ」では、なりきりが女の子ウェブのスパイスとなっていると書かれています。ドリーム小説やBL小説、HP改造やチャット文化など、様々なジャンルに少しずつ振りかけられている「なりきり」は、女の子ウェブの隠し味になっている、と言えそうです。

【追記】
後日、この記事へのコメントに返答させていただきました!
こちらもご覧ください→先日の「なりきり」記事への反響について – ねとぽよ

 

(了)

 

 

書くにあたって参考にした本

演劇論の部分で参考にしました。

 

二次創作を背景としたコミュニケーションについて考察する上で、参考にしました。

 

注1:ドリーム小説とは、決められたある1人の登場人物の名前を、読者が自由に決めることのできる小説です。漫画やアニメ、アイドルや俳優などのネット二次創作でよく見られます。男女の恋愛もので、オリジナルの女性キャラの名前を変えるものが多くあります。

注2:チャットやメール、最近ではLINEなどを使って、他愛もない会話をたえず続けるコミュニケーション志向の女の子の行動パターンを、ここでは「おしゃべり文化」と呼びます。詳しくは、上にも貼りましたが、女の子ウェブとは何か? – ねとぽよを参考にしてください。

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