1.『ゆめにっき』―小説化されたゲームの魅力

先日、人気フリーゲーム『ゆめにっき』のノベル化が発表された
ゆめにっき』とは、2004年に作者・ききやまによって発表されたフリーゲームである。ノベルの執筆には、現在アニメ放送中の『ささみさん@がんばらない』や『狂乱家族日記』の原作者として有名な作家・日日日を迎え、小説化だけでなく、web漫画、音楽CDと、マルチな展開も予定されているほど、ファンの間では人気が急上昇しているゲームのひとつだ。

それでは、『ゆめにっき』について紹介しよう。

……と言うものの、ゲーム『ゆめにっき』の公式ホームページでは、とても暗い雰囲気の、夢の中(という設定)の世界を歩き回るゲームとしか説明されていない。一言ではとても言い表すことが出来ない、独特なゲームなのだ。

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ゲームを始めてすぐ現れる画面では、ゲームの「目的」ではなく「プレイのしかた」だけが説明され、いきなりゲームの世界にほうりだされてしまう。

 

また、浮遊感のある世界の中に突然不気味なシーンが現れたりすることから、「ホラー」の要素を持ち合わせたゲームとしても定評がある。

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このように、一見「わけがわからない」という印象の不思議な作品ではあるが、多くの熱狂的なファンを獲得し、先にも言ったように、ついにはノベル化されるにまで至っている。

僕は、以前からフリーゲームを遊んできた者として、この流れを喜ぶべきことだと考えている。ここからフリーゲームに触れ、作品を楽しむ人が増えると嬉しい。

 

それにしても、『ゆめにっき』は、なぜここまで人気になったのだろうか。『ゆめにっき』がプレイヤーを惹きつける魅力とは何なのだろうか。
以下で、その理由について、簡単に考察してみたい。

 

2.『ゆめにっき』前史としての『コープスパーティー』・『パレット』―「戦わないRPG」の出現

『ゆめにっき』は、「RPGツクール」というRPG制作ソフトで作られたゲームだ。
しかし、『ゆめにっき』には、RPGにおいて重要な要素のひとつと考えられている、「戦闘」が全く無い

 

これを意外に思う人も多いかもしれないが、実は、フリーゲームではRPGツクールで作られながらも、戦闘の無いアドベンチャー(ADV)のような作品として製作された「戦わないRPG」は、10年以上前から存在している。

そうした作品の一例に、アマチュア製作のゲームコンテストである アスキー エンタテインメント ソフトウェアコンテスト、通称「Aコン」で1996年に最優秀賞を受賞した『コープスパーティー』が挙げられる。ファミコンのホラーRPG『スウィートホーム』に影響を受けたとされているこの作品は、ラストシーンの演出で一度だけ戦闘があるものの、探索中の戦闘や、RPGの持つ成長要素などは無い。その部分を印象的と受け取る評判も見られた。

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平凡な生活を送っていた少年少女たち。彼らが夜の学校で怪談話に興じる中、突如「異世界のような廃学校」に迷い込んでしまう。

こちらは、現在『シュタインズゲート』で有名な5pb.が商品化を行っており、実に15年以上もの根強い人気を誇る作品だ。

他には、2000年に「Aコン」のグランプリを受賞した『パレット』という作品もある。こちらは『コープスパーティー』とは異なり、一切戦闘が無い。「記憶の中」という世界を探索する中で、効果音やBGMなど音響の使い方に評判のあった作品だ。僕自身、プレイしたときにはそういった部分に魅力を感じた記憶がある。

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精神科医である「シアン」は、ある日の夜、部屋の外に現れた謎の女から銃を向けられ、記憶喪失の少女「B・D」を救ってほしいと依頼される……。

こちらものちに 『Forget me not ~パレット~』として、プレイステーションソフトとして販売されている。

以上の二作品は、『ゆめにっき』が登場する以前の、「戦わないRPG」を代表する二作品と言える。

 

このように、RPGツクールで製作されながらも戦闘のない「戦わないRPG」が出現した理由はなぜだろうか。それは、「RPGツクール」という制作ツールが、RPGだけでなく、物語を、ひいては世界を作る欲望を満たすツールとして使われ始めたから、である。

たとえば、ゲームというシステムの上に物語や世界を作り出していくデザインツールとしては、最近「クトゥルフ神話TRPG」のブームでも注目されているTRPG(テーブルトークRPG)が存在していた。しかし、RPGツクールがTRPGと異なるのは、「セッション」という物語を生み出すためのライブ行為を介さず、物語が自立した作品として固定されている点だ。物語や世界をダイレクトに伝えるツールとしての側面があるのだ。

 

また、ホラー要素が入っていることも重要だ。
このような「戦闘」がない作品では、別の手法で面白さを出す必要性が出てくる。さきほど紹介した二作品は、「ホラー」という、直感的で刺激的な要素を組み込み、そしてそのホラーな世界観の中で探索や謎解きを行うという部分で、戦闘の代わりの楽しさを提供しているのだ。

 

ちなみに、ここまでに挙げた三作に共通する要素をもう一度確認すると、

1.RPGツクールで製作されている。
2.ホラー要素を含んでいる。
3.(戦闘のない)アドベンチャー(ADV)ゲーム。

という3点である。RPGに、世界観やストーリー性を加えた、「ツクール×ホラー×ADV」の組み合わせは、フリーゲーム界隈では10年以上も前から存在し、ゲームファンの間でかなりの人気を博していたのだ。後に『ゆめにっき』がヒットすることも自然な流れなのかもしれない。

 

3.『ゆめにっき』・『青鬼』・『ib』 ―動画共有による集団参加型ゲーム

では、このような流れで登場した『ゆめにっき』とはどんな作品だったのか?

『ゆめにっき』は2004年に初めて公開され、翌2005年にはすでに、2ちゃんねる同人ゲーム板でスレッドが立ち、作中の意味深な表現に対する考察などが行われていたようだ。

 

そんな風に少しずつ話題となっていたこの作品だが、やはり決定的だったのは動画サイトの登場が生み出した「ゲーム実況」の文化である。
2007年5月、ニコニコ動画の『ゆめにっき』プレイ動画が70万再生を突破。続く2008年には、人気実況者集団であるボルゾイ企画が投稿した実況動画が100万再生を超え、一躍話題となった。

動画内で、視聴者が思いついた様々な考察をコメントし、そのコメントが別の視聴者にフィードバックされ、新たな考察となる……というように、スレッド談義時代の「考察合戦」も引き継がれている。しかも、ネットで落とせるフリーゲームだったために、興味を持った人がすぐに自らプレイできた。

 

このようにプレイ動画で人気となり、『ゆめにっき』と似たような受容のされ方をしている作品に、『青鬼』と『ib』がある。

『青鬼』は、純粋なホラーADV。2009年にボルゾイ企画によりニコニコ動画で実況動画が投稿され、総合マイリスト部門において1位となったことで有名になる。

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『ib』も、美術館からの脱出という幻想的な作品設定、そしてプレイ動画での人気が相まって、最近では同人誌即売会のオンリーイベントが開催されるほどだ。
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では、これら二作と『ゆめにっき』の共通点はなんだろうか?

もちろん、三つともフリーゲームであったというのは重要だ。しかし、フリーゲームは他にもいくらでもある。なぜこれらの作品は人気になったのか。

 

それは「動画映え」することだと僕は考える。
ホラーゲームは、山場である怖いシーンなどの刺激的なカットで、視聴者の気を引くシーンを作りやすい。そういったシーンを、プレイ動画・実況動画としてプレイヤーが集団で共有すると、「集団参加型のエンターテイメント」として楽しむことが可能になるのだ。これこそが、数十万という再生数を記録し、より多くのユーザーに人気が出た理由ではないだろうか。

とはいえ、共通点を多く持ちながらも、『ゆめにっき』には、上記二作と決定的に異なる点がある。
それは、『ゆめにっき』が「ゲーム」というよりは「インタラクティブアート」であるということだ。

ゲームがアートになる――驚く人も多いかもしれない。
しかし、文章を極限まで排除し、世界観をビジュアル的に見せていくこの作品には、明らかにそうした側面がある。
たとえば、『ゆめにっき』の作品世界の中では、「意味深な場面」が意図的に作られた場所がいくつかある。

ひとつは、十字路のような場所の真ん中に、プレイヤーキャラクターの「窓付き」の分身とも幻とも分からない少女が立っている場面。
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また、普段は「窓付き」を追い回してきたりもする「鳥人間」の集団が、愉快な音楽と共に柵の中でピクニックのようなことに興じている場面などだ。
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このような場面は、特殊なアイテムが手に入るわけでもなく、単純に場面として「意味深」なだけだ。
だが、これらの印象的な場面はプレイヤーに刺激を与え、感性に訴えかける。そこから、それぞれのプレイヤーの考察がはじまり、物語が生み出されていくのだ。

『ゆめにっき』は、他のゲームと比較した場合、「次に何をすれば、どうなるか」といった明確な課題設計が弱く、ゲーム設計としては必ずしも優秀とは言いがたい。それを踏まえると、この作品の人気の根本となる魅力は、「ゲーム」としてのメカニクス設計の優秀さ、というよりは、意味深な「世界観」が上手く演出された空間をプレイヤーが探索して楽しむ、「インタラクティブアート」としての性質の突出であるのだろう。

「ゲーム」としての設計が優秀ではないという点は、ツッコミの隙間が存在しているということでもある。「動画」という鑑賞方法にマッチしており、結果として多くの視聴者が実況動画という形でこの作品を楽しめることになったとも考えられる。

 

4.「フリーゲーム」の商業化と、これから

『ゆめにっき』を始め、人気作品を生み出したフリーゲーム。だが最近では、フリーゲームのように個人・小規模製作のゲーム(インディーズゲーム)が、世界的に非常に注目を集めている。典型は、ニコニコでも人気の『Minecraft』である。

もちろん日本でも、先日行われたインディーズゲームイベント「Bitsummit」の熱狂ぶり、PLAYISMによるインディーズゲームの配信、精力的に国内外インディーズゲーム情報を発信するサイト「NYDGamer」の出現など、インディーズゲームは盛り上がりを見せている。任天堂の岩田社長がインディーズゲームに関して言及したことも記憶に新しい。

さらに、現在「ニコニコ自作ゲームフェス」というイベントも大きな盛り上がりを見せている

ニコニコ自作ゲームフェス – ニコニコチャンネル:ゲーム

これほど大規模なゲームコンテストは、以前エンターブレインが行っていた「コンテストパーク」を思い出させるものであり、ゲーム会社や製作団体と提携した豪華賞品のみならず、『アクアノートの休日』など名作ゲームを送り出してきた飯田和敏氏を筆頭に様々なクリエイターのインタビューも掲載するなど、開催にあたっての本気が伺える。

そんなインディーズゲームへの人気が高まる中で発表された、今回の『ゆめにっき』の小説化。様々にゲームの可能性を引き出してきた日本の「フリーゲーム」の歴史に、今後ますます光が当たっていくのを期待したい。

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