さて、前回の記事では「なりチャ童貞」の男性陣に漫画『HUNTER×HUNTER』をネタに「なりチャ」のワークショップを開いてもらいました。

なりきり童貞たちが「HUNTER×HUNTER」でなりチャに初挑戦 POYO NET – ねとぽよ

今回からその内容を踏まえて行われた「なりきり座談会」を3回にわたって公開していきます。この記事はその第一弾です。「なりチャ童貞」喪失の感想から始まり、TRPGの世界で行われてきた「なりきり」論争との関係や、ゲームの外側で上昇する好感度など、冒頭から重要な論点が登場しています。

 

<座談会参加者>

  • tricken:Twitter上で、積極的にTRPGにまつわる議論を行なうTRPGプレイヤー。
  • なおりん:三次元なりきりに中高生時代にハマる。当時は、本郷奏多などタレントメイン。
  • ネコザメ:二次元なりきりを小学生の頃から嗜む。その数々の黒歴史はガール社の同人誌「girl! vol4.」に収録。
  • 斉藤大地:愛読書は『人間・この劇的なるもの』で、演技には一家言あり。
  • 稲葉ほたて:推理小説サークル出身。インタラクティブな物語メディアに興味あり。
  • klov:オブザーバーの予定が、無理やり参加させられる羽目に。

 

なりチャワークショップの感想会

「原作通りに”真似”するわけじゃないんですね」

 

ほたて 実際になりきりワークショップをやってみたところで、ざっくばらんに感想を話していきましょうか。僕は予想以上の面白さでした。

なおりん キャラクターたちも雰囲気があったし、誰かのセリフに合わせて話を作っていこうって流れになっていて、klovさんのクラピカ以外は、みんな上手でびっくりしました(笑)。今回は、一つの二次創作として成立しましたよね。あと、シズクのキャラ作りがイケてました。TRPG力だなと思いました。

大地 trickenさんのなりきりは女の子的ななりきりと明らかに違うロジックで行われていたように思います。それが混ざって物語が紡がれていくのは、見ていてとても面白かったです。

tricken あれはゲームでいう設定厨プレイのつもりなんですよゲームでやりすぎたら鼻白まれるんですが(笑)、なりチャだと設定を盛った方が話がドライヴするから、むしろ多少暴走ぎみなくらいに設定にこだわり抜いた方が結果的に貢献しやすいのかも。それから僕は今回、TRPGのオンライン・セッションの感覚も意識していましたTRPGでも、NPCを動かしたり、サイコロを振る判定を挟まずにキャラを動かす時は、あんな感じになります。桜の木の展開は僕から振りましたが、あれは“課題”らしきものを真ん中に放り込んでおけば、誰かは食いついてくれるだろうと思って、ゲームマスター風の動きを噛ませてみたんですね。

ほたて trickenさんの一言で、話の展開がガラッと変わりましたよね。実際にやってみて一番驚いたのは、事前の打ち合わせもないのに、ぽんぽんと話が展開することでした。なりチャって、毎回こんな風に事前に打ち合わせずにやるんですか?

なおりん 全て即興です。とはいえ、オリジナルなりきりに関してはテーマ(学パロ、バトロワなど)だけは決められてます。それも大きな枠組みだけで、基本的にはどのなりチャも、ふつうのチャットと同じようにいきなり会話が始まります。

klov 僕は、単にオブザーバーで座っている予定が、急遽参加させられたのですが(笑)、その展開の読めない会話の流れについていけなくて、ほとんど一言も喋れませんでした……(笑)。とりあえずキャラ設定だけでも把握しようと、なりチャが始まった後に名言集を見たり、wikiでクラピカのキャラを調べたりしたんだけど、全く意味ないの。クラピカがこの状況で何を喋るか全く想像できませんでした。
なりきりというのは、キャラが作中で喋ったことの真似ではなく、キャラが喋りそうなことを想像しつつ、その場の流れに合わせてテンポよく話にはいらなくちゃいけないんですね。そもそもチャットが苦手な僕には厳しかったです……。あと、この「なりきり」の状況そのものが辛くて……MPが下がりましたね。

大地 キャラクターと自分をすり合わせるチューニングが必要ですからね。

ほたて 僕もなりきりの話を一番最初に聞いたときは、「なんていうわけのわからない遊びなんだろう」と思ったんです。でも実際にやってみると、みんなで空気を読み合いながら話を進めるライブ感が気持よくて、わりと面白さはシンプルなんだなと思いました。個人的には、ゲームを進めるのにダイスを振るより、空気を読み合いながら進める方が、先が見えなくて面白いですね。

tricken なりチャには俳優的な演技力よりも、むしろ脚本家の能力が必要だと思いますね。しかも“即興の”脚本生成能力。与えられた情報を集めた上で、その場で話を速やかに作ることに慣れないと、難しいのかもしれない。TRPGのゲームマスターをやってると、想定外の行動に対するNPCの動きを即興で考えるハメになるので(笑)、そのうちにたまたま鍛えられちゃいましたね。でもなりチャはたぶんTRPGよりも即興がもっと難しいはずですよ。あらかじめ準備されたシナリオもない状態で、何も手掛かりがないところから状況を立ち上げなきゃいけない。だから、klovくんみたいな「厳しいよこれ」って意見が出ても、特に不思議ではないです。

ほたて でも、大学時代にいた推理小説研究会でよく「犯人当て」をやっていたのですが、正解か否かを問わなければ、問題編さえ読めば解決編なんて誰でも作れるんですよ。伏線を拾って展開を考える能力自体は、大抵の人が持ってると思います。

 

 「腹の探り合いのゲーム」としてのなりチャ

 

ネコざめ 今回しっかりお話を終わらせることができたのは、なりチャとしてはレアだと思います。最初から最後まで、メンバーが変わらなかったから出来たのかな。ふつうのなりチャだと人が入れ替わったりレスが遅かったりして、15分後には違う話をしてたかもしれないですよね。

なおりん そうそう。なりきりで重要なのは、ゲームみたいにオチをつけることよりも、むしろコミュニケーションが持続していくことなんです。終わりがもやっとすることの方が多い。

tricken たしかに時間の制限がなかったら、ずっと序盤のチャットのような流れが続きそうでしたね。
僕は『ノミック』という多人数ゲームを思い出していましたこれはプレイヤーが次々にルールを追加したり、削除・変更をしていきながら、お互い自分にとって都合のいい勝利条件を引き寄せて勝とうとするゲームです。そして今回のなりチャも、この『ノミック』のように、たった数十分でいくつものルールが追加されていたと思うんです。たとえば、キャラを上手く演技すること、クラピカをみんなでいじること(笑)、僕が呈示した桜の話を進めること、とかね。
ただし、なりチャがノミックと大きく異なる点も幾つかあります。まずなにより勝敗が必ずしも必要ではないということもありますが、より大きな違いは、ノミックが共有された規則を直接修正し合うのに対して、なりチャではキャラのセリフを通じて間接的・暗示的に介入する傾向が強いということです。お互いが呈示する暗黙のルール“らしきもの”を敏感に察知した上で、次の自分のセリフにその予測されたルールを転用していく、そんな腹の探り合いのゲームでしたね。

 

TRPGは原理的に「なりきり」に向かない?

 

なおりん TRPGの場合は、こういう空気の読み合いで進行する「なりきり」に夢中になってしまうプレイヤーが出てくると困りませんか?

tricken ゲームの課題よりもキャラへの没入感の方を大事にしちゃって、ゲームの進行をおろそかにしがちなタイプの人は、いなくもないですよ(笑)。僕は個人的趣味として、ついつい演技・描写よりゲームデザインの巧みさを比較的重視しがちなのですが、それとは別に、今回みたいにゲームと切り離された「なりきり」は、わりと好きなんです。なにせオハナシの〆を管理する責任が誰にも、僕にもないから(笑)。
ただ、TRPG自体は「なりきり」の可能性を突き詰める表現形式として、原理的にはあまり向いてないんじゃないかと感じています。どこかでゲームにそのつどの区切りをつけないと、TRPGという表現としては破綻しがちです。したがって、現場における進行管理の義務をどうしてもゼロにできない。そしてその義務は、どこかの時点で没入感に水を差してしまいますよね。

ほたて TRPGの「なりきり」と、なりチャの「なりきり」は、おそらく違う背景から登場したものだと思いますが、両者で似ている点はありましたか?

tricken それについても、TRPG側の仕組みから考えてみますね。まずTRPGというゲームには2種類のルールがあると言えます。ゲームそのものの約束事である「通常のルール」と、そのルールだけでは処理しきれない架空の状況を処理するために必要な常識・判断基準を示した「準ルール」です。ところがこの準ルールの方は、記述として読んでみると、体裁がほとんど小説やマンガの設定資料集みたいな感じなんですよね。
二次創作なりチャを今回一緒にやらせてもらったわけですが、今回やったのってつまり……原作『HUNTER×HUNTER』の読解を通じて『H×H』らしさの法則性を個々人で抽出し、さらにそこから構築しうる解釈をそれぞれ持ち寄った上で、二次創作なりチャをお互いに実践していた、ということじゃないでしょうか。これを先ほどお話したTRPGっぽい視点で言い直すなら、なりチャはいわばTRPGにおける「準ルール」の部分を個々人で編纂してから、その編纂のズレを現場で一行レスごとに微調整している行為なんじゃないか、ということですね。一方、TRPGにおける「ルール」の部分はといえば、一部の重要なマナー論を除いて、今回のなりチャにはほとんど見つからなかったですね。

 

 TRPGにとっての「なりきり」

 

なおりん では逆に、TRPGとなりチャの両方の「なりきり」の違いはどういうところにあるとtrickenさんは思いますか?

tricken TRPGは、ベタな意味での「ルール」さえ守っていれば、それだけで参加できます。たとえば行動宣言をしたり、キャラの行動判定のためにサイコロを振ったりですね。つまり「ルール」が要請しない限り、なりきりを実践する必要はほとんどないとも言えるんですよ。
でも、より巧みなロールプレイングを目指そうとすると、ゲームと一緒に設定の部分、つまり「準ルール」の側面でも、キャラの動きが世界観にふさわしいものなのかについて、お互い評価しはじめることになります。この段階の課題に挑戦する時になって初めて、TRPGにおける「ロールプレイング」となりチャの「なりきり」とが、微妙に重なってくることになるのかなと思います。
ところで、進行管理のルールやノウハウが整っていなかった頃のTRPGシーンでは、なりきりに限らず、単にゲームで行動宣言をすることさえ苦手で無言になってしまうプレイヤーを、「お地蔵さんプレイヤー」と呼ぶこともありました。本来であれば、その人も一緒に楽しく参加できるようみんなでフォローしていくべきなんですが、単にdis用語として使われて問題自体はなおざり、なんていう残念な場面もよくあります。今でも言うのかな。

klov はい、お地蔵さんでした(笑)。

tricken なりチャにもお地蔵さんがあったとは(笑)。なりチャは、どういう切り口で慣れればいいか、難しそうですもんね。TRPGの方では、さっきも触れた通り、プレイするためになりきり風の描写をする必然性は特にないんです。ルールが示す手順通りに、プレイヤーが「キャラをこういう風に動かします、キャラの能力はこれを使います」「私のキャラはそいつに対して『〜〜』と言うよ」などと淡々と述べるだけでも、実はTRPGをしっかり遊べていることになります。「なりきりができないとTRPGには参加できないのでは……」とよく誤解をされがちなんですが、TRPGは意外とそのへん、最小の労力でも楽しく参加できるようになっているんですね。

なおりん TRPGゲーマーも、ゲーム中はわりとノリノリでキャラになりきって遊ぶものだと思ってました。

tricken そこは、当たらずとも遠からずですかね。当たってる部分についていうと、国内TRPGの商業リプレイに出演されるプレイヤーの方々は、なりきり芸の面でも巧みであることが非常に多いんです。もちろん、遊び手がノリノリな方が、その記録を読む読者もオハナシとして楽しめるからいいんですけど……。
少し今回の話とズレてしまうのですが、TRPGリプレイを読んで、「こんなのが当たり前に求められるなんて、ハードルが高すぎて怖い、参加できないッ!」って思っちゃった人の感想を良く聞くんです。実際、TRPGにまだ一回も参加したことのない人が、知己に頼らずにTRPGのプレイの仕方を調べようとする場合、書店やホビーショップ、オンライン書店で売ってる商業リプレイが一番入手しやすいわけです。その際、ゲーム的な運用例として読まれると同時に、一方でプロのなりきり芸のパフォーマンスも含めて“模範的な到達点”として示されていると受け取ってしまった場合、そこで遊ぶのをためらってしまう人は、わりと少なくないかもしれません。なりきり的な営みが好きか嫌いか以前に、まず簡単には真似できないですから。
ところがですね、色んな流派のTRPGゲーマーの方々と遊んでみるうちに、アマチュア/プロの別を問わず、ルール通り素朴に遊んでみた場合のTRPGプレイの風景は「なりきりの達人」タイプ以外にも意外と沢山あって、しかも流派ごとにゲームの極め方もさまざまだったということが、僕にも徐々に見えて来たんですね。そういうさまざまな指向性をもつTRPGの遊ばれ方が、書店に流通する商業作品や、ゲームコミュニティの外側の噂だけでは見えづらい、そうした側面が意外と大きいのかなと思っています。

そんなTRPGの事情に比べると、なりチャは参加していきなり、プレイヤー自身でお互い色々担当しないといけないことがちょっと多すぎるんじゃないでしょうか(笑)。僕から振った桜の話なんかの課題設定も、TRPGならゲームシステムや、シナリオを準備してきたゲームマスターが引き受ける部分ですね。

なおりん なりきりだと、みんながお互いにゲームマスターになれるんですね!

tricken みんながなれる、とも言えますし、誰かがどこかの時点でそういうゲームマスター的なポジションを引き受けないとオハナシっぽくならない面がある、とも言えますね。でも、そもそもオハナシっぽい必要さえないんだ、というところに、なりチャの懐の深さがあると思います。うっかりゲームマスターの手癖でオハナシを仕込んでしまったのが、今振り返るとむしろもったいなかったかもと思うくらいですよ(笑)。

 

なりきりが上げる好感度はゲームの外側にある

 

ネコざめ 私はなりチャをするときはいつも、イチャイチャする相手を探すんですけど、今回は誰ともできなかったです……。団長に絡もうとしたんだけど、見事にバサバサ切られました。ラブラブしたかったなぁ。

一同 (笑)。

ほたて なんか来てるなと思ったけど、無視した。もし、そこでクロロがシズクと仲良くしてたらどうするの?

ネコざめ あきらめます。ヒソカにいこうかな。

ほたて ネコざめ先生、また出会い厨発言……。

ネコざめ ネット上だけです(笑)。もっと中の人同士の”(これ萌えますね!)”って会話をしたかったんです。

なおりん なりチャでは、発言のあとに”(・・・)”を加えて、中の人の感想を入れることがあるんです。

tricken あっ、プレイヤー発言もアリだったんですね。口裏合わせてラクしちゃだめだなーと思って、基本的に自主規制してました。そっちの方が難易度高そうだったので(笑)。

ネコざめ たとえば、「黙れ、お前(これは萌えました!)」みたいにセリフに一言付け加えるのは、とっても大切です。人間関係を築く上で、「黙れ」ということがマイナスに響くかもしれないけど、それは否定的に言ったわけではなくて、萌えたものに対する一言だと、と伝えたいんです。

大地 誤読を避けるためのルールなのね。個人的には、なりきりをゲームにたとえるなら、ギャルゲーみたいに好感度を上げていくゲームという感じですね。あなたの言説は私の好感度を下げていませんよって伝えるのは重要だし、シーンの演出を工夫したり、持続させることで好感度が上がっていることを示すんです。

ほたて でも、たぶん重要なのは、ここで言う好感度はリアルでの好感度のことだと思うんですだからこそ、なおりんがよく言うように、なりきりは恋愛に発展するし、実際に文通したり、オフ会をするんだと思います。

大地 ディスプレイ上で男キャラ同士を恋愛させるうちに、中の人である女の子たちも擬似恋愛に陥っていくって、めちゃくちゃ倒錯してるよね(笑)。同時にこれは、なりきりをゲームとして見たときに「マジックサークル」の境界が薄まっていることを示していると思います。
TRPGでもゲームを超えてリアルの好感度にも繋がることはあるんですか?

tricken もちろん。サークルクラッシャー問題とかよくありましたよ。今でもあるんじゃないかな。90年代のTRPG雑誌では、「粘着湯気女」って言われてたみたいですけど。

一同 粘着湯気女(笑)!?

(しばらく、粘着湯気女の説明が続く。 参考:粘着湯気女とは – はてなキーワード

大地 ヤバい、超ヤバい。初めて聞きました。ゲームの中でも彼女に見せ場をあげようみたいな展開になったりするんですかね! ゲームマスターのフェアネスがいかに壊れるか、すごい気になります(笑)。

 

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5時間に渡る座談会はまだ始まったばかりです。次回は、「なりチャ」をしたがる目的や欲望について、ジェンダーの側面から光を当てていきます。続きもお楽しみください。

TRPGは「なりきり」をどう捉えてきたか trickenさんと「なりきり座談会」を開いてみた<中編>

 

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