夢小説―― 一度くらいはこの名前を聞いたことがあるかもしれません。ねとぽよでも、本誌やPOYO NETで夢小説に関する記事を書いてきました。先日、増田でも話題になっていましたね。

 しかし、その実態は謎のまま。もちろん、本屋にも売ってない秘密の小説です。
 

 みなさんはキャラと恋するべく、次元を超えられますか?

 

 

夢小説とはなにか 

 まず、夢小説の最大の特徴は、小説の主人公の名前に自分の名前を入力して読めるようになっていることです。

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某電子書籍の夢小説PDFに「美月」という名前を入力してみた

 

 例えば、これは某電子書籍販促サイトの隠しページにある夢小説です。最初のテキストボックスに自分の名前を入力すると、JavaScriptで主人公の名前が一括で自分の名前に変換されます(ちなみに、噂によればその電子書籍は、「PDFの夢小説機能実装」という世界初の試みもしたらしいですよ!)

 名前変換機能のおかげで、大好きなマンガやアニメ、時にはジャニーズや俳優などの有名人と自分がキャッキャウフフする二次創作小説を拝めるわけです。『ハリポタ』の世界で彼らと一緒に心躍る冒険ができたり、『テニプリ』で逆ハーされたり。関ジャニ∞の安田くんとクラスメイトにもなれるし、佐藤健くんとデートできれば、ドラマや舞台のキャラと同じ次元にもいけます。女の子の想像力が生み出した、恋のどこでもドア。偉大なり。

 

 これすなわち、「圧倒的な不可能性の(JavaScriptによる強引な)実現」とでも、表現できるでしょうか。『CCさくら』の雪兎さんに抱きしめてもらったり、『黒子のバスケ』の赤司と遠距離恋愛したり、嫉妬深い黒子を垣間見れたり。もちろん、こんなものは脳内にとどまるべき、ちょっと恥ずかしい妄想なのですが、主人公を自分に置き換えることで、暴力的に次元の壁を超えることができます。なかなか人には言いづらい甘いシチュエーションも、夢小説なら実現できるのです。

 

 

シチュエーション命!!

 夢小説のもう一つの特徴は、シチュエーションを重視することです。Wikipediaに様々なシチュエーションがまとめられているので興味のある人はご覧ください。「甘々」「シリアス」「激裏」「悲恋」など、本当に多種多様なものがあります。

 

ドリーム小説 – Wikipedia

 

 中には「嫌われ夢」や「狂愛」など、あまりの業の深さにため息を吐きたくなるようなシチュエーションもありますね。「嫌われ夢」というのは、ひたすらかっこいいキャラクターたちから主人公が「キモい」「嫌い」とdisられ続けるシチュエーションです。メジャーなシチュエーションではないですが、夢小説の奥深さ(?)について考えさせられます。

 

BL vs 夢小説!?

 このようにシチュエーションを大事にする夢小説ですが、実は他の二次創作の文化とは少々異質なものです。ネットで二次創作を楽しんでいた女の子たちはよく知っていると思いますが、BL読者と夢小説読者は、大変に仲が悪いです。私のように、夢小説もBLも読んできた人も少なくないと思いますが、夢小説のHPには「BL読者の方は回れ右で」と書かれていることが多いです。

 しかも、男性の人はよく勘違いするのですが、これは「男×男」派と「男×女」派の争いではありません。

 

 例えば、二次創作における最大勢力である、男性同士の恋愛を妄想して楽しむ腐女子たちは、キャラクター同士のCP(カップリング)を非常に大事にしています。したがってBLでは、夢小説におけるシチュエーションの名前のように、キャラ同士の関係性に多くの名前がついています(総受け、誘い受けなど)。

 また、私の友人で夢小説嫌いを公言しているBL好きは、「そこに自分がいないからいいのに、なぜ自分を物語に入れようとするのか」と憤るのですが、一方で夢小説好きの知人は、「BLで男の子だけが楽しそうにしてるのを見ても、寂しくなるだけ」と言います。

 

 そう、夢小説とは自分とある一人のキャラとの恋愛を目的とするもので、BL小説はキャラ同士の関係性に萌えるものなのです。これは、そもそも全く別の欲求にもとづいて、まったく別の読み方をするものだと言ってよいと思います。ちなみに、ねとぽよの男性陣たちは、「夢小説好きの方が普通の感覚で、BLが変なだけじゃないか?」と首を捻っていたようです。男女の感覚の差なのか、単にねとぽよの男性陣が特殊なのかはわからないですが、私は面白い話だと思います。

 

実は、自分の名前を入れるだけではありません

 と……話してきたところで、1つだけ話をわかりやすくするために、話を単純化してきたことを皆さんに告白します。それは、ここまで名前入力欄には自分の名前を入れるという前提で話をしてきたことです。

 しかし、実際には話はそんなに単純ではありません。実はこれ、ねとぽよで夢小説について調べる中で私も初めて知ったのですが、夢小説好きの中にも、自分の名前を名前入力欄に”入れる派”と”入れない派”がいるのです。面白いことに、私が当然のように「みんな自分の名前を入れる」ものだと思っていたように、「入れない派」の彼女たちも、多くが「みんな自分の名前は入れない」ものだと思っていました。まあ、BLならともかく、夢小説の話なんて友だちとしませんもんね……。

 例えば、女の子のオリジナルキャラクターの名前を入力して、彼女がキャラクターたちから愛されている様子を楽しむ人も多いようでした。自分を作品世界の中に入れているわけではないという点で、BLの読者と似ているかもしれません。実際、夢小説はどんな女の子が名前を入力しても良いように、主人公は無個性の場合が多いです。近代小説に登場してくる語り手主人公に、少し視点のあり方が似ているのかもしれません。少なくとも、BLのようなキャラクター小説に比べると、そうです。

 

 ちなみに、腐女子の中には、好きな男性キャラクターの名前を入力して、マイナーCPを求める気持ちを夢小説で紛らわしていた人もいるようです。これは夢小説の本来想定されている使われ方からは明確にずれていますが、そのようなことが可能なくらいに名前が入力される主人公は、あらゆる存在を受け入れるほどに個性の少ない器なのです。とはいえ、腐女子は「この人と、この人じゃないとダメ」と固有性の高い恋愛を読みたがります。腐女子とドリーマーが相容れないのは、この無個性さにあるのかもしれません。

 

いまは消えつつある(?)夢小説の文化

 しかし、そんな夢小説も、現在では往時よりもだいぶサイトが少なくなっているようです。腐女子ウケする少年漫画の人気は今なお高いですし、デザインの要素も重要視する夢小説の文化は、編集の自由度が高いHP文化ならではのものだったとも言えます。商業サービス全盛の現代ではなかなか難しいのかもしれません。確かに、今回の記事を書くにあたって話を聞いた女の子たちも、「夢小説はもう読まなくなった」という子が多かったです。

 とはいえ、夢小説的なものを求める女の子が減るわけではないと思います。例えば、乙女ゲーム。夢小説読者には、乙女ゲームをやっていた人が多い印象があります。どうも乙女ゲーム好きと夢小説好きには密接な関係があるようです。ねとぽよで掲載した乙女ゲー紹介記事の通り、ストーリー展開やキャラのセリフが、夢小説的な発想にとても近いと思います。

 

 ちなみに、私が聞いた感じでは、夢小説で自分の名前を「入れる派」だった人は、乙女ゲーでも自分の名前を「入れる派」で、その逆もまたしかりな傾向があるようです。そんなところも、両者の共通点かもしれません。

 私自身は、夢小説は少女漫画が形を変えてインターネットに現れたものだと思います。みなさんもご存じの通り、少女漫画によくあるシチュエーションに「学校で一番人気で、毎日下駄箱にラブレターが入ってるような、憧れの先輩から突然告白された!」「図書室で本を探していたら偶然彼が持っていた本で、それから……」など、胸がキュンキュンするような設定がたくさんありますよね。どれも女の子の理想が極まっていて、「実現するわけねーだろ」と冷静につっこみたくなりますが、その過剰さこそ、少女漫画と夢小説の共通点と言えそうです。男性で少女漫画を読んでいる人は少ないと思いますが、女の子なら誰しもが一度は通る道。少なくとも、「ちゃお」や「りぼん」を卒業した私が、次に胸をときめかせたのは夢小説でした。最近だと、ティアラ文庫なんかが、そういう女の子の欲求を埋めているのかもしれません。

キャプチャ

夢小説の要素がふんだんに詰まっている(ティアラ文庫)のTOPページ

 

 また、二次創作は時代の移り変わりとともに、形を変えています。たとえば、BLでは2009年頃から、「ちゃんねる系」という2ちゃんまとめ風の二次創作が登場しています。

 

 

 今や、続々と増え続けるウェブサービスに影響され、創作のスタイルまでもが変化する時代です。もしかすると、JavaScriptでヒロインの名前を変換する夢小説も、時代と共に姿を変えて、わたしたちが再び読む日が来ることになるかもしれません。

 

 (了)

 

 

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