前回の話→第一幕(十)を読む。

 

 

カバンからでてきたキツネの石像が決め手になった。

どれも放火された寺社に奉納されていたものだったから。

 

犯行動機は

 

「火事が起これば屋根に上り、旗をあげて注目を浴びることができる。

彼は纏をあげたかったのだ」

 

ということで解決した。

あたしが犯人だと思われたのは

 

火事の度に現場にかけつける、

 

火消しファンクラブの女の勝負服が

セーラー服にそっくりだったせいだった。

 

 

 

そんなのと間違えられるなんて(白目

 

奉行所に連れて行かれた纏の男は、

それまで羽織っていた「れ組」の半纏を目の前で焼かれた。

灰に返っていく上着を見てかなりショックを受けてたらしいけど、

彼が心の核にしてた『火消の半纏』は煙にのって雲の上へとさようなら。

 

 

灰。

 

灰。

 

灰。

 

鞠貢の寺の庭から、小さな煙があがっている。

 

炭がぱちりと折れて、一瞬だけ赤く光った。

網に触ると火傷するぜ、と辰徳が注意を促す。

 

「無事に犯人つかまって、よかったよね。あの写真がなかったら、纏の男なんて疑わなかったよ」

鞠貢は金網に食材を載せながら、お手柄、とあたしを褒めた。

お腹減ったね、と朝里ちゃんは焼きあがるのをじっと待つ。

 

ばーべきゅーなう。

 

わいわい。

 

まあ、江戸の人だって外で肉くらい焼くでしょ。

 

 

 

でも、なんか足りない気がする。

 

 

バーベキューに必要な物、みっつ。

 

・太陽

 

・気配り

 

・そして、種類豊富な食材

 

 

何故、網の上には

サザエしかいないのか。

肉も無い。。。

 

 

乱十郎と朝里ちゃんは食べることには興味がないらしいし、

(朝里ちゃんはもうお腹いっぱいらしい)

火消しは火を起こすのに夢中、

恭之介は鞠貢の皿にサザエをのせて、美味しそうに食べる鞠貢をにこにこ眺めている。

 

「これじゃバーベキューじゃなくて壺焼きパーティーじゃん!

 

「ごめんなさい、サザエ三十個まとめ買いしたら安くなるって勧められて、

まとめ買いしたら他の食材を買うお金が……!」

コーイチは頭を下げた。

 

 

値切れよ。

 

コミュ力低い男は買い出しに向かない。

 

 

「でも、あの男、最後まで否定してたね」

朝里ちゃんは貝殻をぽいぽい投げ捨てて遊んでいる。

角の生えたサザエの貝殻は木の幹にしっかり刺さった。

サザエ手裏剣?

 

あたしはにわかに、朝里ちゃん実はくノ一である説、を疑ってる。

 

「動機と証拠が確かにあるじゃないですか」

コーイチがサザエに息を吹きかけながら言う。

 

そういえば、あの女の子は。銀髪の。

まだ寝たっきりだろうか。

桜模様の障子の向こう、髪を布団の上にしっとり流して横たわっていた女の子。

せっかくの壺焼きパーティーなのに。

誰かに、あの子は? って聞きたかったけれど

し子とか愛人とか公に触れちゃいけない系のアレだったら……と気遣って、控えた。

「片足草履の謎は解けずじまいだったね」

恭之介はおいしそうにサザエを食べるコーイチや鞠貢をみて微笑んでいた。

 

「まァ、あいつが捕まってから放火魔は現れなくなったんだから、一件落着でいんじゃねェの」

乱十郎は四次元フトコロから取り出した扇子で仰ぎながら答える。

 

ちょっとだけ、腑に落ちない事件だった。

 

動機も証拠もそろってるのに。

片足草履の秘密は迷宮入りかもしれないし。

犯人が認めたのは「皮膚病に罹った妹のために、ご利益のあるキツネの石像を盗んだ」

ということだけで、連続放火事件に関しては、ずっと否定し続けていた。

纏を上げていたのは泥棒をごまかすためで、火をつけたのは他の誰かだと釈明する。

 

そんな都合の良い話ありかよ。

 

鞠貢が、ひとまずこれでいいじゃない、と笑う。

 

 

あたしは鞠貢の足元を見つめた。

太陽は真上にある。

草履のあたりにできる影は小さくって、丸い。

あれは見間違いだろうか。

犯人のこととは別にもう一つ。

腑に落ちないことがある。

寺が燃えていたあの火。

赤い明かりを浴びた鞠貢の影が。

人の形をしていなかった。

 

地面にうつる黒い二本の脚、二本の腕、細い胴体、少し長い首

 

それから

頭から生える、ネコ耳が二つ。

ぺったりしたお尻には尻尾の形をした影が。

とんがった耳と

ボリュームのある尻尾。

 

 

5_まりくの影

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三角の耳が音を捉えて震えた。

彼自身の影は建物にできた四角い影に飲まれて消えた。

 

肉の薄い唇から犬歯が覗く。

鋭利な五本の爪、力を入れ過ぎたせいか仄かに指先が充血している。

すらりと伸びた鼻は彼の面立ちを聡明そうに見せるが、それは人間の鼻ではない。

着物からはみだす足についた筋肉は人間離れした大きさだ。

 

キツネだ。

 

彼の足元に人間が一人、力なく座り込んでいる。

その人間の白目は濁り、黒目には光がない。

瞳に生気がなくとも、唇からは吐息が漏れる。

心臓は動いているようだ。

 

「由良。むやみに喰うな」

由良、と呼ばれたキツネの後ろに、人間の姿をした男が現れた。

「ソウ……」

キツネは彼の名前を呼ぶと、犬歯で舌を軽く齧った。すると、膨らんでいた筋肉が収縮し

彼は人間の姿へ化けた。

「ソウ、将軍の息子がどこにいるかわかりましたよ。

確かに、稲荷寺の住人でした。

今回狙った稲荷寺の人間ではなかったのですが……なぜかその場にいたのです。

殺生石の在り処は未だ見つかっておりませんが。

寺を燃やすのは、ひとまず終いでいいでしょう」

 

ソウが、確認したのか、と聞けば、由良は得意になって答える。

「狐火による影を見ました。キツネと契約を結んだ証が、克明にあらわれておりました」

 

ソウは、どうでもいい、とそっけなくあしらい、

そういや、犯人は誰ってことになったんだ? と尋ねた。

 

「予定通り、纏が捕まりました」

 

それを聞いたソウはクツクツと声を抑えるように笑い、

あの女、うまいこと遊んだんだな、と呟く。

 

足元に転がる人間が、小さくうめき声をあげた。

ソウが、ちらりと由良へ視線を送る。

 

由良は、そうだ、こいつ日記帳を………と呟き、

自分の首の後ろから、てのひらに収まるほどの嬰児の骸骨を取り出すと

それを宙に投げた。

その頭蓋が、由良の頭に触れた瞬間。

 

地面にできた影に、獣の耳と尻尾が生える。

 

キツネになった由良の目は、子供が泣きだしてしまいそうなほど冷たい。

由良が尻尾を一振りすると、地面に小さな凹みができた。

その窪みから火があがる。

 

狐火だ。

 

倒れている男のカバンから日記帳を取り出すと、

由良は狐火の中に放り込んだ。

日記帳が燃え尽きると、狐火も消え、後には奇妙な凹みだけが残った。

「最後に、纏……。あいつの記憶、喰っといた方がいい」

 

ソウの指示に、由良は頷く。

二匹のキツネは、人間の姿のまま、江戸の町のどこかに紛れていった。

路地に残された男は呻く。

彼の足元にある狐火の痕跡、ちいさな凹み。

 

それは柔かな楕円形で、

丁度、草履の底のようだった。

 

 

 

<第一幕、終>

 

 

(明日に続く →第二幕へ

 

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