前回のお話→第二幕(五)を読む。

妖式コンゲームとは?

 

 

俺にも、、、?

蔵の中で膝を抱えた。

 

俺にもできるなんでもできるこれからできるようになるいまできないことだってこの先はきっとできるだから俺はできる俺にもできる清澄にできるんだから俺にもできる、

呪いみたいに唱え続けてきたけど、俺が清澄とおんなじようにできたこと、一度だってあった?

いや、清澄にできないことができるようにならなきゃいけない。

清澄と同じこともできないのに?

 

片葉の葦事件の時。

 ―俺は清澄が人間そっくりの手足の木彫りを作るのを見てた。

狸囃事件の時。

 ―俺は清澄を小馬鹿に見てた。

灯無し蕎麦屋事件の時。

 ―俺は月明かりのさすなるべく安全な場所から見てた。

見てた。いつも見てた。

見てることならこんなに完璧にできる。

見る。

置いてき掘事件みたいに、何かしようとすれば必ず悪い方に動く。

今回だって。

今回は。

 

錫杖で体を支え、それでもなお清澄は応戦する。

清澄が弱れば弱る程、物の怪の攻撃は勢いを増す。

土が吹き飛び地面に裂け目ができる。

 

あんな太刀受けられるか?

 

全身の産毛が逆立つ。

俺はいつになったら清澄になれるんだろう。

いくつになったら?

どのくらい勉強したら?

なにをきっかけにして?

 

(鞠貢、鞠貢、ねぇ)

 

俺は上になんかいけない。記憶や時間は積み重なるけれどそれは俺自身が積みあがっていくのとは違う。記憶と時間が降り積るものなら俺自身は横並びになるだけのもの、ぐるぐるとまわっていくだけで、しゅるしゅる、と同じ地平線の上を広がり遠くに伸びていくだけで、いつまでたっても近づけない清澄には。清澄には。

 

(鞠貢、鞠貢?)

 

紺乃か、うるさいな。

 

俺は知ってるさ、生まれたばかりの頃には武家の暮らしを、五歳で文字を、七歳で剣術を、十歳で漢詩を、知識は増えた、いろんなものを見た、十歳まではすべてが新鮮だった、でもその後の六年の間に新しく記憶したすべてものは、すでに知っているものと似通ってきて、ああこれなら知ってるよ、って冷めた目で見て済ませてた。こんな物の怪を見るのは初めて、だけど、きっと俺の記憶のどこか片隅にはこれと似通った事例があるはずでこれだって大したことないんだ、大したことない、でも俺は今日も見てるだけ。

ひっぱるのは誰だ?

紺乃か。

やめてよ。やめてって。かまわないでって。

 

 

「 に お う 」

 

物の怪が清澄の背中越しにこっちを睨んだ。

明かり窓を通して視線がぶつかった、ような気がした。

俺はいったん窓の下に隠れてから、もう一度こっそり顔をあげた。

 

「殺生石はあの蔵の中か?」

 

「壊れた、と言っているだろう」

 

「退け」

 

「力づくで退かせたくて仕方ないって顔してるな。やってみろよ」

 

ああ。

窓枠に手をついたまま、絶句した。

 

背中しか見えなかった。

明かり窓から見えるのは清澄の後ろ姿だけだ。

清澄は、俺を庇う姿勢で、物の怪の相手をしてる。

「鞠貢、外に出るの?」

 

紺乃が袖を掴んだ。

外に出る? あの物の怪たちの前に?

蔵の壁に手をつく。俺は……

 

「蔵は開けるな。そこには高価な軸や屏風、墨、壺が保管してある。悪い空気に触れさせたくない」

 

「妙な口ぶりだな。……なぁ、俺たちがどうして二人で来たと思う?」

 

物の怪は不敵に笑い、二匹は右と左に分れた。

一匹は横から、もう一匹は清澄をすり抜けて

蔵へ突進する。

 

物の怪の気配が迫る。

蔵の光が薄くなる。

暗雲? いいやキツネの影?

紺乃の手を掴んだ。

戸がカツンと鳴った。

木箱を開け布を取る。

手が滑る。

引き戸がわずかに開く。

紺乃に被せる布を。

戸から差し込む月明かり。

布で包んだ紺乃、木箱の裏へ押し込む。

 

引き戸が敷居を擦る音耳に障る、広がる明かり外の光、

心臓がうるさい、頭の中まで熱くなる、荒くなる息を抑えるため深く息を吸う。

俺は木箱の蓋を握り、いつでも物の怪を殴れるよう腕を振り上げ――――

 

 

―――「おい!!!」

 

 

物の怪が叫んだ。

腕を振り上げたまま静止した。

けれど。

いつまでたっても、物の怪は中に入ってこない。

引き戸は数センチ開いたままだ。

すぐそこまで来ていた気配は、ゆっくり遠ざかった。

 

足に力の入っていないらしい清澄は

攻撃を避けると、よろつき錫杖を杖にして三本足で立っていた。

膝はつかない。

蔵にも背を向けたままだ。

 

「これ見ろよ!」

 

物の怪が勝ち誇った声をあげる。

 

よろついた反動で、清澄の胸から透明な玉が落ちたのだ。

それは雹のように地面を小突くと、わずかに跳ねて転がり桜の根元で止まった。

苔石の沈む湖の水面みたいに、不思議な濁りのある水晶だった。

蔵のすぐ手前まできていた物の怪が、生唾を飲む音が聞こえた。

 

御堂に飾っていたもう一個の数珠、

それに繋ぎとめられていた水晶だった。

「どうなってるの?」

紺乃は水色の布を剥ぎ棄てた。背伸びして、食い入るように外を見る。

 

清澄はすぐさま拾おうとしたけれど、物の怪の方が早かった。

物の怪は水晶を手に取ると光に翳し、水晶の影を見た。

それから舌先で石についた土を舐め、地面に唾を吐いた。

 

「殺生石だ。間違いない」

 

月明かりが途絶えた。

一滴の雨粒が屋根を叩く。

 

物の怪が勝利の咆哮をあげようとした時だった。

金色の矢が飛んだ。

矢じゃない、錫杖だ。

それは物の怪の背中を貫いた。

こいつ、ともう一匹が鎌を振るった瞬間、

その懐に入り込み、隠し持っていた短刀で物の怪の手の甲を刺した。

手にしていた殺生石が落ちる。

 

「物の怪に持って行かれるくらいなら」

 

清澄は、血のついた短刀を殺生石に突き立てた。

 

 

まばらな雨は瞬く間に大降りになった。

雨音。

雨音だけ。

それしか聞こえない。

驟雨のせいで、破片の飛び散る音はかき消された。

雨粒に混じって、鋭い破片が輝いた。

雨が地面を黒く染めはじめた。

雲が月を隠したというのに、地上は妙に明るかった。

濡れはじめた土の、ところどころが光っている。

 

錫杖を受けた物の怪は膝をついた。

もう一匹は、両手を震わせ月に向かって慟哭した。

 

「殺生石がああああああ」

 

俺は体を固くして成り行きを見守っていた。

物の怪は荒れ狂った太刀筋で清澄を襲った。

清澄は短刀で物の怪の片目を潰した。

二匹の物の怪は、こいつ、本物まで壊しやがった……と震え声でつぶやくと

長居してもいいことねぇよ、と捨て台詞を吐き、傷口を押えた。

 

そうして、二匹の物の怪は引き上げていった。

 

蔵の戸を開ける。

 

雨の向こうに見えたのは清澄の背中。

 

錫杖を握り、雨を受けて立っていた。

柄についた血はすっかり洗い流されている。

 

清澄の元へ駆けだした途端、雨を吸い込んだ鼻緒が切れた。

「清澄」

清澄は振り返った。

「風呂を沸かしてくれ。熱めのを」

清澄はいつも通りの、仏頂面で俺に命令した。

 

雨は物の怪に荒らされた地面の裂け目に向かって流れ

庭のあちこちに水たまりを作る。

清澄の体を雨が伝う。

大きな草履の鼻緒が、赤く染まっていた。

住職の足元にできた水たまりだけ色が黒い。

雨の湿気た臭いに混じって、禿げた鉄の臭いが漂った。

寒気のする臭いだ。

 

清澄の袈裟は破れ、そこから滲む血が雨と合わさり、地面へ。

 

「け、怪我……?」

清澄は、平然とした態度で、あぁ、と答えた直後、がっくりと膝をつき、吐血した。

 

 

 

 

(明日に続く →第二幕(七)を読む

 

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