※ この原稿は、4月29日のニコニコ超文フリで販売された「ねとぽよ(SP2) ニコニコ特集号」に掲載されたものです。現在では古くなっている記述がありますので、ご注意ください。

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アイドルから物語へ

 

 今、アニメイトのボカロPコーナーには「オリコンランキング~入り」の文字が溢れている。例えば今年に入ってからを見ても、トーマの1stアルバム「アザレアの心臓」は週間6位、150Pの「終焉-Re:write-」は週間10位、kemuの「PANDORA VOXX complete」も週間10位と、オリコンTOP10入りした作品は枚挙に暇がない。また、じん(自然の敵P)の「カゲロウデイズ」は楽曲の投稿にとどまらず、小説化もされており、累計70万部を超える大ヒットとなっている。彼のワンマンライブ「ライブ・イン・メカクシティ」も、横浜と大阪の2カ所で開催され、大盛況のうちに幕を閉じた。

 

  アザレアの心臓   

終焉-Re:write- 

 

  PANDORA VOXX complete     

 

ところで、上に挙げたボカロPたちの作る音楽には「作曲にVOCALOIDを使用している」こと以外にも共通点がある。それは、それぞれの楽曲歌詞、またはPVにおいて作者オリジナルのキャラクターが登場し、曲を聴く中で、そのキャラクターたちの物語がひも解かれていく、といった形式をとることだ。これは、私たちが見知った「初音ミク」や「鏡音リン」などは全く登場しないボカロ曲であることを指す。VOCALOIDを使った曲が作られはじめた2007年頃には、「(ボカロキャラクター名)にオリジナル曲歌ってもらった」のような楽曲群や、曲の挿絵としてVOCALOIDのキャラクターを採用するような楽曲群が流行ったが、このような曲とはもはや別物と言ってよいだろう。かつて、ボカロ楽曲にはアイドルとしての「ボカロキャラ」の存在が必要不可欠であり、最大の特徴だとさえ思われていたのかもしれないが、今では、そのような既存の設定を活用せず、オリジナルキャラを使ってストーリーを語る楽曲が現れている。

 

   そして2013年。冒頭にも記したように、「物語性」の強い楽曲群がメインストリームの一つとなっている。これはなぜなのだろうか――この問いは、簡単に明らかにできるものではない。そこで本稿では、「VOCALOID伝説入り」タグのついたボカロ楽曲群、すなわち、100万再生を超えた楽曲群を「その年を代表する楽曲」と仮定し、その143曲を考察の対象とした。「初音ミク」が発売された2007年から2013年現在(2013年5月19日)までの約7年間におよぶ「伝説入り」楽曲から見える、ボカロ楽曲の変遷を辿りたい。  

※「伝説入り」楽曲だけでは、多くのとりこぼしがあることは筆者も認識している。また「歌ってみた」「MMD」など他ジャンルからの影響も計り知れない。それらに関しては、本稿を踏まえた上でより深い議論をすべく、別の機会に取り扱いたい。      

 

黎明期(2007年~2008年)

 

   ニコニコ動画に投稿されるボカロ楽曲が爆発的に増え始めた2007年~2008年は「ボカロのキャラクター性を活かした楽曲」が、伝説入り楽曲のほとんど全てを占めている。「みっくみくにしてあげる」や「メルト」が有名だろう。2008年から、次第に「ボカロキャラ」から「物語性」を重視する楽曲が増えはじめる。たとえば、昨今のボカロメディアミックスの流れに強い影響をあたえ、後に小説化されることとなる楽曲が投稿された、mothy_悪ノPの「悪ノ娘」とcosMo(暴走P)の「初音ミクの消失」の2曲だ。「悪ノ娘」は、数曲にわたって、物語風に展開されている連作の一曲目であり、「初音ミクの消失」は初音ミクによる高速の「しゃべり」の歌唱と初音ミク自体をテーマにした切ない歌詞でファンを獲得し、二次創作が多く投稿されるほどのヒットとなった。  

悪ノ娘

 

  初音ミクの消失   

「初音ミクの消失」の二次創作動画 

 

 ニコニコ動画のN次創作を語る際、このようなVOCALOIDのキャラクター性を活かした楽曲と、そこから生まれるN次創作のコラボレーションによる拡散が、しばしばヒットの定形として語られてきた。しかし、実はそれが強く当てはまるのはこの黎明期までの話でしかないように私は感じている。というのも、この「ミクが歌っている!」かのような演出が、楽曲のヒットを生んでいくという定型は、翌2009年には必ずしも当てはまらなくなり始めているからだ。

「JOYSOUNDトップ10入り」以降(2009年~2010年)

 

 2009年の始めには、JOYSOUNDに入ったボカロ楽曲は100曲を超え、JOYSOUNDの年間ランキングで、「メルト」が9位にランクイン。初のTOP10入りを果たした。2012年には、JOYSOUNDカラオケ年間ランキングで黒うさPの「千本桜」が、「残酷な天使のテーゼ」を抑えて3位に入っているが、ボカロ楽曲が、ネットだけでなく、カラオケでも盛り上がるほどメジャーになってきたのは、この頃からだろう。

 

 2009年に投稿された曲で、現在最も多く「伝説入り」を果たしているのは、sasakure.UKとハチの楽曲たちだ。この頃から、VOCALOIDのメジャーゾーンにも、「物語性」を重視する楽曲が目立ちはじめたように思う。sasakure.UKの作品は、チップチューン系のサウンドで、おとぎ話のような温かみのあるストーリーやSF的な世界観が特徴だ。彼の代表作には、「*ハロー、プラネット。」(2009年)や「ぼくらの16bit戦争」(2009年)などが挙げられる。彼は、作品作りに影響を与えたものとして、ミュージシャンだけでなく、宮沢賢治、星新一、手塚治虫など作家の名前も挙げていることからも、単に音楽を作りたいだけでなく、「物語性」を志向していることが分かる。

 

  ぼくらの16bit戦争   

 ハチの作風も独特だ。奇妙でおどろおどろしさを感じる曲もあれば、ファンタジックで不思議な世界観を押しだす曲もあり、代表作には「結ンデ開イテ羅刹ト骸」(2009年)、「マトリョシカ」(2010年)、「パンダヒーロー」(2011年)などがある。sasakure.UKと同じく、彼の楽曲からも「ボカロキャラ」への特別な意識がほとんど感じられない。  

結ンデ開イテ羅刹ト骸 

 

 また、この年にDECO*27の、思春期の「傷つきやすさ」や「恋愛感情」を強く押し出したギターロック「二息歩行」が、ヒットしたことも重要だ。最近になって、ボカロ楽曲が中高生から圧倒的な支持を受けている。これは、イベントやライブへ足を運ぶと明らかであるが、それはDECO*27のように、若い世代に響く楽曲を生み出してきたボカロPたちの存在があるのではないか。

 

  二息歩行   

 余談ながら、ここで見逃せないのが、ハチ、DECO*27が共にBUMP OF CHICKENからの影響を公にしていることだ。現在でも、「K」や「ラフメイカー」のFlashを、思春期の頃にネットを使って聴いた思い出の曲だという人は多い。10年前に思春期の葛藤を物語性を帯びた歌詞で歌い上げ、中高生の圧倒的な支持を集めていた、バンプ。おそらくここには、J-POPや洋楽を中心とした史観からは決して語られない、ネット世代の音楽史がある。  

ラフメイカー

 

 翌2010年は、前年の勢いを加速させるように、ハチ、DECO*27の2人がシーンを作ったと言っても過言ではないほどヒットを連発した。その結果、「ボカロキャラが目立たない」「中高生に意識を向けた」といった特徴を持つヒットボカロ曲の傾向は更に明確になった印象を受ける。例えば、ハチの「マトリョシカ」は、ハイテンションで癖になるロックナンバーとして、投稿から2年以上経った今でも、人気を博している。DECO*27の「モザイクロール」は、GUMI使用曲の中で初めて100万再生超えを達成した曲で、「この曲でGUMIが有名になった」とまで言われるほどだ。

 

 また、wowaka(現実逃避P)は、2009年に大ヒットしたハイテンポの楽曲「裏表ラバーズ」に続き、「ローリンガール」と「ワールドエンド・ダンスホール」を投稿し、いずれも「伝説入り」楽曲となっている。このテンポの速さは現在の人気楽曲にも引き継がれており、この見せ方がボカロ楽曲における一つの最適解ではないかという印象さえ受ける。

 

「物語化」の本格化(2011年~2012年)

 

 今まで記してきたように、2007年から2010年までの約3年の間でも、VOCALOIDは大きな変化を遂げてきた。ニコニコ動画にボカロ楽曲が投稿されはじめた頃は、キャラクターの声や見た目の可愛さなども生かした楽曲が多くあったことは、いわずもがなであろう。しかし、sasakure.UKや、ハチ、DECO*27を筆頭に、「ボカロキャラ」に加えて、「物語性」を活かした楽曲が目立ってきた。また、カラオケでの人気や、ボカロ楽曲の小説化など、ニコニコ動画を超えて、メジャー化が進んでいる。

 

 ところで、私はこんな驚きの事実を知った。VOCALOIDマスターの参加者は16〜22歳の女性が6割を占めるのだ。これは、ニコニコ学会βで発表され、超会議2に合わせて一般公開された、2012年春時点のデータだ。また、同じく2012年には、earth music & ecologyと初音ミクのコラボ服が販売されている。インタビュー(*1)には、中高生がボリュームゾーンで22歳からは一気に落ちる、と書かれていた。VOCALOIDは、一体どうなっているのだろうか。

 2011年~2012年は、「物語性」を含む音楽によるメディアミックスのシーンが一気に加速した年だ。2011年には、黒うさPの和風ロック調で人気のある「千本桜」、OSTER projectのミュージカル形式の大作「アリスインミュージックランド」、ハチのハイテンションでエッジの効いた「パンダヒーロー」がいずれも話題となったが、この時期に最も重要なことは、繋がりのあるいくつかの楽曲によってオリジナルの世界観を作り込んでいく作風のボカロPたちが一気に表舞台に出始めたことだ。

 例えば、じん(自然の敵P)は、「人造エネミー」(2013年4月26日で約73万再生)、「メカクシコード」「カゲロウデイズ」「ヘッドフォンアクター」を投稿し、話題を博した。他にも、家の裏でマンボウが死んでるPの「クワガタにチョップしたらタイムスリップした」、「スイートフロートアパート」、kemuの「人生リセットボタン」、「インビジブル」も、「伝説入り」している。また、先日1stアルバム「アザレアの心臓」がオリコン週間6位にランクインしたトーマの「バビロン」も2011年の投稿である。まさにボカロ楽曲のイメージを「物語性」と「連作」に結びつけた年といえる。

 

 そして、昨年2012年。じん(自然の敵P)のカゲロウプロジェクトは、「想像フォレスト」「コノハの世界事情」「如月アテンション」「チルドレンレコード」が「伝説入り」。また、kemuの「イカサマライフゲイム」、「六兆年と一夜物語」、「地球最後の告白を」、「カミサマネジマキ」も「伝説入り」している。今現在(2013年5月20日)、2012年の伝説入り楽曲は16曲であるから、なんとその半分を2人のボカロPが占めるという、かつてはなかった人気の寡占状況が起きている。さらに、これらの楽曲がGUMI、IAを中心に制作されていることにも注目すべきだろう。

 

 また、最近ではボカロ楽曲のメディアミックス展開との相性のよさも注目されている。カゲロウプロジェクトの他、れるりりの「脳漿炸裂ガール」、Last Note.の「恋愛勇者」「セツナトリップ」が漫画化。そして、うたたPの「こちら、幸福安心委員会です。」が小説化されており、また、kemuの「イカサマライフゲイム」「六兆年と一夜物語」もノベル化が発表されたことで、「伝説入り」楽曲の半分が、ネットだけでなく、さまざまな媒体でも発信されている。

 

 このように現在、ボカロ楽曲が「5分で聴いて共有できる、音楽×映像で物語が楽しめる新たなエンタメの形」として、熱狂的な支持を受けている。ニコニコ超パーティ2で演奏されたボカロメドレーには、じん(自然の敵P)やkemuの曲が多く、このライブの最後に歌われたのは「桜の雨」だった。また、最近の流行の中心にあるカゲロウプロジェクトのイベントに足を運ぶファンの大半は、小学生~高校生の女性であり、2013年4月時点で、今年「伝説入り」した2曲は、両方ともじん(自然の敵P)の作品であることを考えると、彼女たちが今のボカロ楽曲全体の視聴者の中で、もっとも熱心に楽曲を聴きこんでいるボカロファンと言っても過言ではないだろう。

 

 主に2007年から「伝説入り」の中でも特に、特徴的な楽曲をピックアップして振り返ってきた。本稿から見えてくるのは、強く支持された楽曲が、ひとつの解として新たなスタンダードとなり、それらが積み重なった上に、オリジナルキャラクターの物語たちが花開いていることだ。この次の段階とは、どのようなものなのか。出版社によるメディアミックス、そしてカゲロウデイズのアニメ化でさらに、新たな変化があるだろう。その先のボカロ楽曲が一体どのような形に発展していくのか。それが、ボカロファンの一人として楽しみで仕方がなく、この新たなエンタメの出現をリアルタイムで体験できることを幸運に思う

(了)

※ 追記

ねとぽよSP2にこの記事を掲載した後、5月29日に発表されたじん(自然の敵P)のカゲロウプロジェクト新作アルバム「メカクシティレコーズ」、そして〜日に発売された小説『カゲロウデイズIII -the children reason-』はオリコンウィークリーランキング首位を獲得。同作者によるCDアルバム、小説首位独占という前代未聞の快挙となった。

カゲロウデイズIII -the children reason- (KCG文庫)

 

また、この後、発売された「ボカロ小説」で目立った動きといえば、ボカロP Last Note.が自らの楽曲をノベライズした『ミカグラ学園組曲 1 放課後ストライド』のヒットだ。7/25発売から1週間たたず売り切れという書店が続出し、Amazonも在庫切れ。7/22~7/28のオリコンウィークリーでは文庫15位にランクインし、この時点での推定売上部数は15959部。発売初週(06/11~6/17)オリコン13位の『カゲロウデイズ-in a daze-』に迫る勢いだ。

 

また、8/15に行われた、カゲロウプロジェクトのじんワンマンライブ「ライブ・イン・メカクシティ SUMMER’13」では、カゲロウプロジェクトのアニメ化がシャフト、新房昭之監督によって制作されることが発表された。次々現れるヒットの芽と、豪華な制作陣によるアニメ化。ボカロ派生のエンタテインメントがまだまだ拡大していくことは間違いないだろう。

カゲロウデイズIII -the children reason- (KCG文庫)

 

 

 

(*1)http://ascii.jp/elem/000/000/707/707071/index-5.html

 

(*1)http://ascii.jp/elem/000/000/707/707071/index-5.html

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すにふ

すにふ

中高生向けエンタメを追いつつ国産ヒップホップに浸るねっと廃。公私ともエンタメ周りで日々ぽよぽよ。