前回の内容→第一幕(三)を読む

 

 

疑われないのも怖い。(こんなにあやしいあたしを)

でも、疑われるのはもっと怖い。(あやしいと自覚しててもね)

 

「放火魔じゃないよね?」

鞠貢の眉毛には力が入っている。

「違う違う」

「うん、信じる」

 

「早っ!!いいの?」

 

思わず叫んだ直後、障子があいた。

呆れた顔をした男の人が、鞠貢さん! と怒鳴る。

向こうで話を聞いていたらしい。

 

「ここは託児所じゃないんですよ?」

 

「いいじゃない、賑やかな方が楽しいし。コーイチも好きなくせに、みんなでわいわいするの」

 

「今晩、魚三匹しか用意してませんよ?」

 

夕飯の心配か。

 

いい主夫だ。

 

 

コーイチ、と呼ばれた男の人は眉をひそめた。

眉間に皺が三本も入る。

 

「三匹だったら丁度いいんじゃないの?」

 

そう尋ねると、コーイチは首を横に振る。

 

「女の子が二人も。ここは寺ですよ? 住職が生きてたら怒りますよ」

鞠貢は、もう一人いるんだ、とコーイチが出てきた障子を指さした。

桜の模様が描かれた可愛らしい和紙が張られている。

コーイチの背後、半開きになった障子の部屋をそっと覗く。

 

薄暗い。

枕元には行燈。蝋燭の火は消えている。

香が焚いてある様子はないのに、白檀の香りが漏れてくる。

紺色の牡丹柄の掛布団に、銀色の髪の毛が扇状に広がっている。

ハープみたいに、指で撫でれば音のなりそうな綺麗な髪だ。

 

「もう、四日も寝たきりで、出てこないんですよ」

 

「この子、この寺(仮)に住んでるの? さっき、女の子はダメって言ってなかったっけ?」

 

鞠貢とコーイチは顔を見合わせた。

 

「君、どっから来たの?」

とコーイチは強い口調で尋ねた。

 

 

「三鷹市ジブリの森付近」

 

「「???」」

 

セーラー服の襟をぱたぱたさせると、

コースケは怪訝そうな顔で、安そうな服……と呟いた。

 

「真面目に答えてください。どこから来たんですか」

 

「ネットブラウザの向こうから」

 

 

鞠貢は顔をくしゃっとさせて笑い、

コーイチは「夕飯作りますか」とため息交じりに答えた。

 

 

スル―された。

 

 

まあ、どこから来たかなんて言及されたくないんで、

別にいいんだけどね!!!

あんまり上手いギャグ返せないし!

 

コーイチは抗議するみたいにうるさく音をたてて納豆汁を啜った。

鞠貢はコーイチに午後の予定を尋ねる。

読経と剣術と坐禅、と、それこそ経でも読みあげるように告げるコーイチに対し鞠貢は

「今日は剣術だけにしない? せっかくお客さんがいるんだから」と言い放った。

 

「いいよあたしに気をつかわなくても」

「サボりたいだけだろ」

 

コーイチは少し顔を赤くして、鞠貢さんだらしないんですよ大体いつも……とお説教をはじめた。

苦笑いしている鞠貢と、慣れた調子で彼を叱るコーイチの姿は親子のようでほほえましい。

 

まっさきに茶碗を空にした鞠貢は、コーイチの説教などどこ吹く風で

「見世物小屋に連れてってあげるね!」と勢いよく立ち上がった。

コーイチは、ゆっくりしてってかまいませんから、と優しさを発揮したけれど、言葉尻に棘がある。

 

「見世物小屋はね、すごいんだよ、縄抜けとか曲鞠とかね、」

 

「でも、あたしこの格好で外でたらまた追いかけられるよ」

 

 

「変装しよう!」

 

鞠貢は深緑色の着物をあたしの腕に押しつける。

 

それ、男物?

男装とか超憧れなんだが……!!!

 

 

さよならセーラー服。

さっくり着物に着替えると、案外悪くなかった。

鞠貢と色違いの格好だ。

鞠貢は「それ、俺には結構大きいんだけどなぁ……」

と少し落胆していた。

 

着物で外に出れば、袂に夏の風が入り込み、袖がふわりとなびいた。

風通しが良くなると、足取りも軽くなる。

 

江戸の町。

着物って暑苦しいと思ってたけど、案外、みんな涼しそうだ。

大通りでは、道中で商いをやってる。

肩に担いだ天秤棒

飴屋、油屋、虫かご朝顔。

歌う商人、値切る子供。

お祭りみたい、と呟けば、道の真ん中は飛脚が通るから、と鞠貢があたしの手をひいた。

鞠貢のてのひらにはマメ。固い。

これが夢じゃなかったら。

もしくは永遠に続く夢だとしたら。

 

 「楽しそう」

 

見世物小屋はあの先だよ、と鞠貢は指さす。

 

何があるの? と尋ねれば、鞠貢は目を輝かせて

 

「ふたこぶラクダにインド象、曲鞠べら坊いかもの食い。

毛むくじゃらの熊女、二メートル越えの三大女!!」

 

 

フリークショーじゃん。

 

 

R指定なくて平気?

 

見世物小屋とは、どうやら少しアングラなサーカス小屋のようだ。

女子的に悩ましい部分あるなソレ……。

困惑してたら、鞠貢が急に、あっ! と手をふった。

 

 

「お二人さん、デートするなら、女の子には花の一つも持たせてあげなきゃさァ」

白い着物。

土埃を弾き返し粉雪みたいに衣が光る。

彼は懐からカスミソウを取り出すとあたしの頭に挿し、ほら可愛い、と微笑んだ。

 

 

 

えええええええ

 

 

 

キュン………(//////////)

 

 

隣で鞠貢は、うげーと具合悪そうな声を上げる。

さっきの服もオシャレだったけど、また奇抜な着こなししてるねェ……と彼はあたしの男装を横目で眺め、鞠貢は、サイズが合わなかったんだ、と唇を尖らせた。

乱十郎は、女の子を喜ばせるなら有象無象の巣窟である見世物小屋より川原だ、と言い張り、

彼おススメのデートスポット、華麗なる新緑の川辺、でお昼寝をすることになった。

 

 

「こっちの方が楽しいかも」

 

鞠貢は草の上に寝そべって笑った。乱十郎は、ふん、と涼しげな顔で鼻を鳴らす。

 

 

水の流れは緩やかで、川の音はほとんど風の音と同化していた。

木の葉が揺れるのを眺めながら、水がしゃらんと鳴るのを聞く。

 

「ねえ、何時になったら帰る?」

 

「空を見るのに飽きたら」と乱十郎が答えた。

「魚の焼けるにおいがしたら」と鞠貢。

 

あたしは、と言いかけて、口を噤んだ。

 

ねぇ、

 

 

「ねぇ、次の日の予定とか今日のミッションとか、考えないの?」

 

 

 

え、と鞠貢は不思議そうな顔をする。

 

「そーゆーのは、一人になった時に考えればいんだよ」

 

 

鞠貢が笑い、

乱十郎があくびをした。

 

 

「草相撲しよーぜ」

 

鞠貢がうつ伏せになって雑草をちぎりはじめた。

一人になった時に考えればいい。

ここにいたら、ちっとも一人になれないかも。

追われてる最中には朝里ちゃんが、寺には鞠貢とコーイチが、町に出れば乱十郎が。

 

鞠貢と乱十郎が草をばってんに重ねて、はっけよーい、と声を上げた。

 

 

のこった。

 

 

その瞬間、鞠貢の草がちぎれる。

 

 

 

 

うとうと目を瞑りかけていたら、

突然、黄色い声が耳に突き刺さって眠気が吹き飛んだ。

 

 

「ねえ! あれって乱十郎サマじゃない?」

「嘘、私服?!」

 

乱十郎は力の抜けた顔で微笑んだ。

乱十郎、サマ?

 

まさか皇族?

 

二次元イケメンキャラ、宝塚、韓流アイドル、

以外にサマ付けされる人っている?

 

「人気者なんだ」

 

「ちょっと遊んでこようかな」

 

乱十郎が立ち上がってふところから傘を取り出すと、ちいさなギャラリーができた。

 

 

 

ドラちゃん

 

四 次 元 ふ と こ ろ ~ ~!!!

 

 

女の子だけじゃない、男の人も、彼の近くに集まった。

黒山の人だかり。

竹下通りに新しくできたクレープ屋の行列を思い出した。

あたしは輪の外にはじき出される。

近くの黄色い着物の袖を掴んだ。

違う。鞠貢の着物じゃない。

 

あれ、鞠貢は?

 

乱十郎は群衆の中心にいる。

ここからでは、彼の姿が見えなかった。

 

あたりを見回すと、こないだあたしを追い掛けていた男の姿を見つけた。

何の集まりか調べているようだ。

追手は乱十郎に向かって「町歩くときは顔を隠す決まりだろ!」と怒鳴っている。

まだ、あたしには気づいていないらしい。

気まずい。

男装してるとはいえ、さすがに。

 

鞠貢はいないし、乱十郎とも離れてしまった。

頼れる人はいない。

 

 

近くの路地に隠れた。

 

 

別にな、すねてるわけじゃないよ???

 

 

江戸で、ぼっちになってしまった。

 

 

 

 

 

(明日へ続く → 第一幕(五)を読む

 

 

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