前回の内容→第一幕(五)を読む。

 

 

「早速、指名手配されてますよ。

男装がバレないといいですけどね」

 

コースケは目の下にクマをこしらえ、疲れた顔で瓦版をひらひらさせた。

そこには、制服を着て天狗のごとく飛び跳ねるあたしの浮世絵が。

実物より、少しだけうりざね顔で釣り目に描かれてるけど。

 

 

わりと似てて感動。

 

特に洋服のデッサンがマジで緻密。

 

セーラー服って描くの楽しそうだしね!

 

 

 

まあでも早く、本物の犯人を捕まえなきゃ……。

 

 

ここにいれば大丈夫、といった鞠貢に対し、コースケは首を振る。

 

「一か所に居続けるより、安全な場所をいくつか見つけて、点々としてた方が良いと思いますよ。真犯人が捕まるまで」

 

「……出てって欲しい?(うるうる」

 

「僕は僕なりに真面目に君の身の安全を考えてるんですよ!?」

 

嘘……呟きながら嘘泣き

両手で乾いた目頭を押さえれば、鞠貢が、コースケのばーか、と彼を叱った。

 

「それも一理あるかもな」

 

えきゅぅうーとダチョウがいななき、

高下駄の底がカンと鳴る。

 

朝里ちゃんだ。

仕事を終えたらしい彼女はダチョウから飛び降り、

膨れたカバンを畳の上に投げるとキセルを取り出し、火! とねだった。

 

朝里ちゃんの咥えてるキセル、長さが尋常じゃない。

一線を越えて長い。

 

コースケは渋い顔でマッチを擦りながら、ほら朝里さんだって同意ですよ、と答えた。

「悪は一か所にとどまってちゃだめなのさ。瓦売りと一緒でね」

 

朝里ちゃんはキセルの灰を地面にとんと落とした。

鞠貢は、眉毛をきりりとさせて朝里ちゃんの着物の袖を掴んだ。

 

「悪じゃないよ」

 

鞠貢の言葉に、コーイチは目をぱちくりさせた。

朝里ちゃんはキセルを懐に仕舞うついでに、袖をひっぱり鞠貢の腕を払う。

いくよ、とあたしに合図して、朝里ちゃんは畳に投げたカバンを拾った。

 

 

銀。

 

 

紋。

 

帳。

 

巾。

 

カバンのヒモが、緩んでいたらしい。

 

あふれでる財宝。

宝飾品に空財布。

 

中から小判や美しい紋の入った帯、

呉服屋や油問屋の帳簿、小型の巾着が転がり落ちた。

これ、明らかに他人様のものじゃん。

 

「あ、ごめん落ちた。クルミ、コースケ、拾って

 

「「おもいっきり悪じゃね??」」

 

「違う違う、ねぇ?

朝里ちゃんは鞠貢に向かってこにこと同意を求めた。

激しく首を振るコースケの隣で、鞠貢、苦笑。

 

朝里ちゃん、仕事って、万引きですか。

万引きっつーか、スリ?

 

お水とかくノ一とかそういうの期待してたんですけど。

 

泥棒女だったー。

 

にゃーお。(それは泥棒猫)

 

 

朝里ちゃんはお宝の入った鞄を背負いなおすと、

男のいる家に泊まるわけにはいかない、と船宿に向かった。

朝里ちゃんはカバンから適当に銭を掴み、それで宿賃を済ませた。

泥棒と一緒に逃げてるわけか。

 

四畳半の宿で朝里ちゃんはそうそうに横になった。

あたしは人生初の蚊帳に興奮、目が覚めて現代に戻ってたら?

なんて妄想と、傍に盗んだ大金がある緊張感が手伝ってちっとも眠気がやってこない。

 

でも、あたしをもっともドキドキさせてるのは例の一件だ。

「ねえ朝里ちゃん、放火魔ってどんなヤツだと思う?」

さあね、と朝里ちゃんは興味なさげに寝返りを打った。

 

放火魔として指名手配されてるあたしに良くしてくれる

彼女こそ放火魔だったら?

 

 

だってさ、ミステリーって主人公の一番近くにいるヤツが怪しいじゃん。

コナンだって、大抵まっさきに仲良くなった人物が犯人だったりするじゃん?

一番、嫌だ辞めてよ嘘でしょ信じられない、ってことを仕掛けてくるもんでしょ? 

リアルに朝里ちゃん放火魔でしただったらこの江戸で何を信じたらいいかわからなくなるよ鞠貢だって朝里ちゃんの紹介だもんグルだったらおしまいだもん、まあいつの世もそうよね誰を信用したらいいかなんてわかりませんよね泥棒と一緒に逃げてるとか捕まった時ブラックすぎわろりwつーか朝里ちゃんが放火魔だったらあたしのこと都合悪くなったら殺したりとかします?します???

 

「あのさ」

 

あたしに背中を向けたまま、朝里ちゃんが呟いた。

黙り込む。

ねえ、と朝里ちゃんはもう一度呼びかけてきたけれど、あたしに背中を向けたままだ。

あのさ、と朝里ちゃんが再び囁く。

「聞いてるよ?」

そう、と朝里ちゃんはゆっくりゆっくり溜息をついた。穏やかな吐息だった。

衣擦れの音が夜へぽうっと染み込んで、何故だか体が暖かくなる。

何、と聞けば、朝里ちゃんは、おやすみなさい、と答える。

なんだか浮かれた声だった。

 

外で丸くなっているダチョウが、少し微笑んだように見えた。

あたしは、この狭い蚊帳の中がとても居心地が良いのことに気づいて、目をつぶる。

 

「おやすみ朝里ちゃん」

 

 

 

 

朝里ちゃんは朝から夕方にかけて「仕事」をしているようだ。

皆が寝静まっている夜よりも、昼の喧騒に紛れる方がやりやすいらしい。

 

朝里ちゃんは、やっぱり一所に居続けるのはよくないと考えているようで、朝一番に宿を出ると、寺とは反対の場所へあたしを案内した。

 

『伯蔵主手習い所』

 

二階建て家屋の入り口にはそう看板がかかっていて、

ダチョウがクチバシで柱をつつけば、穏やかな顔をしたお兄さんが引き戸を開けた。

「その子は相棒?

楽しいお仕事の話なら、夕方にしてくれないかな?

これから歌舞伎見に行くつもりなんだよね」

 

お兄さんは目を細めて唇にやんわり笑みを浮かべたまま腕を組んでいた。

 

このおにーさん、古本屋のにおいがする。

(※サブカル臭じゃない方の古本屋です)

 

朝里ちゃんは、仕事で頼ったりしないよ、と啖呵を切ってからあたしの背中を押した。

 

「この子預かって欲しいんだ。せっかくだから歌舞伎一緒に連れてってやってよ。

夜になったら迎えに来る」

 

「別にかまわないけど、人に預けて平気なの? 大事な相棒を」

 

「連れだけど相棒じゃない」

何かあったら恭之介ん家燃やしてやるから!

と笑いながら朝里ちゃんは両足でダチョウの腹を蹴ると、豆腐屋の押し車を追い越し、路地へ消えて行った。

 

さて、と恭之介は振り返り、くすくす笑いながらあたしの手を取った。

 

「男装してるってことは君、役者か、わけあって身を隠してるかのどちらかだよね?

……男装してるくせに、竹刀さえ握ったことのない手だね。役者じゃないんだ」

 

役者って、

脱げば青あざ

切り傷、タコ、打ち身捻挫火傷突き指

 

あったり、するもんです?

 

バレリーナみたいな? 水面下でバタ足白鳥みたいな?

 

どこの世界も厳しいとは思うけどさーあ(適当)

 

舞台、あこがれちゃうよね、なんだかなぁ。

ステージライト、夢描いちゃうよね。

だって、ちょっとバカで単純思考なんだもん☆

(散々だな~♪)

 

でも、これを見てたらまじでふつーに歓声あげたい。

恭之介は寺子屋の先生で、教室には子供の忘れ物と思しき編み笠が置いてあった。

それをあたしにかぶせると、歌舞伎を見に行くのつきあってくれる? と微笑んだ。

歌舞伎、午前六時からやっとるらしい。(驚愕)

木戸銭を払い桟敷席に座れば、若い男の子がお弁当を運んできてくれた。

ステージは中央にあり、舞台の後ろ側や二階席にまで観客が溢れている。

花道が近く、かなり良い席だ。

 

先生は樟脳の匂いのする地味な着物の襟を正しながら、

にこにこと水菓子をほおばり、観劇している。

 

歌舞伎役者が、ぐいと見得を切った。

 

 

今、目があった気がするううう!!!

 

 

「今、こっちみたわよ!」

 

後ろの席に座ってる女子たちも騒ぐ。

 

 

勘違いさせるの、大事。

 

 

歌舞伎役者が胡坐をかいて着物から両足を出せば墨か何かでたくさんの傷跡が

ペイントされていた。

乱十郎サマ! と嬌声があがる。

どうやら見せ場らしい。

 

……乱十郎?

 

「しがねぇ恋の情が仇。命の綱の切れたのをどうとりとめてか木更津から」

 

声、高っ。

役者って声色七変化可?

 

他人の声で「火事だー!」って叫んだり

もしくは変装して誰かになりすますとか、可?

女子高生のかっこーとか、できたりする???

 

で、あたしのかわりに火災現場に現れたりとかした? だっておかしいんだもんあたし記憶ないのにこんだけ追っかけられておかしいっおかしいっ

でも、乱十郎は火事があった日、稽古があって芝居小屋から一歩もでてない、って言ってた。

アリバイってやつがある。

 

アリバイとか。

日常で使ったことないそんな言葉!(どきどき)

 

 

そんなことを考えていたら、全然集中してみてられなかった。

 

観劇が終わると、恭之介は茶屋へ案内してくれた。

そこはまだ舞台には立てない役者が給仕をしているカフェらしい。

 

アナゴの天ぷら、ぐううま。

 

恭之介と天ぷらをつついていたら、乱十郎が現れ隣の席に座った。

今日のはまあまあだったね、と恭之介がくすくすと含みのある笑みで彼を誉める。

乱十郎は舞台がうまく行くと、かならずここで当たり蕎麦を食べるんだそうだ。

逆にうまくいかなかった日には、とちり蕎麦をいただくらしい。

 

乱十郎は、化粧こそ落としていたけれど、髪の毛はオールバックのままだった。

 

「追っかけられてるのに、わざわざ見に来てくれるとは嬉しいねェ」

 

乱十郎はつけ汁の表面が隠れるほど山椒をふりかけた。

恭之介は、追われてるんだ、とにこやかに繰り返し、

乱十郎から放火魔の話をきくと、ふうん、と顔色一つ変えずに蕎麦を啜る。

若い衆に蕎麦を振る舞わなきゃならないから、と楽屋へ戻る乱十郎と一緒に店を出て

恭之介と手習い所へ戻った。

恭之介はお教室の前の席にあたしを座らせると、机の上に新聞を広げた。

 

「もしかしてこの手配書、君?」

 

朝里ちゃん何も教えてくれないから、と恭之介は溜息をついた。

 

「でもあたし、やってないんで。真犯人、捕まえるつもりなんで」

 

「どうやって?」

 

「アタリはつけてます」

 

嘘ついたー!

だって、未定、っていうのカッコ悪いんだもんw

 

「ほうっておけばいいのに」

 

「あたしが捕まえなきゃって思ったんです。間違えられて、逃げ回ってなんて、楽しくないから」

恭之介は、ふうん、と適当な声で答え、お茶入れるね、と背を向けた。

お教室の壁には地図が貼ってある。

今まで放火された寺って、どの辺にあるんだろう。

 

鞠貢から聞きかじった寺の名前を思い出しながら、

地図上でその場所を探して、爪でバツ印の痕をつけていく。

 

えーと、

ここ、と、ここ、だっけ……

 

爪を軽く押し込むと

向こうにある壁が指の腹を押した。

木の壁はやわらかかった。

 

爪跡をつけた地図を眺める。

 

あれ?

 

 

地図上で円を描くように、順々に放火されている。

 

北にある寺社を起点に、反時計回りに焼かれていた。

 

 

ミステリー小説(児童向け)で見たことあるパターンだ……!!!

 

 

じゃあ、次はもしかして……

 

 

………この地図、勝手に持ち出しおk?

 

 

 

 

 

(明日へ続く →第一幕(七)を読む

 

☆一言アトガキ

――カゲプロのモモちゃんの「奪っちゃうよ?」のとこ、聞くたびに必ずニヤける。

 

 

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