初めて放課後ストライドを聴いたときの衝撃は今でも忘れられない。まるで、乙女ゲーやアニメのOPを見てるようだった。今年四月のニコニコ超パーティーⅡでも、踊ってみたで人気の愛川こずえさんたちが躍り、会場を圧倒していた。キャッチーな歌詞とテンポのいいメロディは、中毒性があり、カラオケを盛り上げる曲としても定番になってきているのではないだろうか。

 

  そんな人気楽曲が、ついに小説化された。MF文庫Jから『ミカグラ学園組曲 放課後ストライド(以下、ミカグラ)』が発売されたのだ。

 

ミカグラ学園組曲1 放課後ストライド (MF文庫J)

 

 筆者は、原曲のボカロPでもあるLastNote.。「恋愛勇者」はミリオン、「セツナトリップ」はダブルミリオンを達成しており、ミリオンを複数持つ25人目のボカロPだ。LastNote.の曲を集めた「セツナコード」は発売翌日のオリコンデイリーで7位。最近のVOCALOID楽曲の重鎮といっても過言ではない。

 LastNote.は、近年のニコニコ動画発のボカロPらしく、セルフプロデュース力も非常に高い。例えば、演奏は「弾いてみた」に投稿している人たちに直接依頼している。一方で職人気質もあり、GUMIの調教や曲の細かい部分もかなりこだわっているという。

 

ナタリー – [Power Push] Last Note.アルバム「セツナコード」インタビュー

 

 今回、そんな彼が小説を書くとあって、私は期待して本を手にとった。そして、読み終えて思ったのは、本作がボカロ小説の成熟を示す作品だったということだ。そう思った理由を、以下に解説していきたい。

 

 

第1の理由~ミカグラ学園そのものに興味をそそられる構造

 

 なぜ、本作がボカロ小説の成熟を示すものと言えるのか。まず1つ目の理由は、通常のボカロ小説のような、単なる楽曲の世界観の謎解きに終始していないことだ。そうした作品は、一読したら「なるほど、こういうストーリーがあったのね」と思い、それで満足してしまう。だが、本作では読み終えたあとに、むしろ作品のことをもっと知りたいという情報収集欲が刺激されていくのだ。

 

おかしな放課後、はじめました。

可愛い制服とお淑やかなスクールライフに憧れ入学した文化系の部活しかない全寮制高校。

各部活の代表者が特殊な能力でバトルする、普通じゃない光景が。不思議に無敵な学園組曲、開幕!

 

 この説明書きにあるように、一宮エルナが入学したミカグラ学園は、通常の学校とは違い、文化系の部活に所属しないと”退学”になるという謎の高校だ。しかも、学内では部活ごとに対抗戦が繰り広げられ、そこでの勝負がポイントで換算されることで、生活の質や学校のテストなどあらゆる日常生活に影響を与える。

 

「この対抗戦は一体どうなるのだ」「シグレはなんでこんなに人気があるの……!?」「放課後ストライドだけでなく、ひみちゃんの曲も小説で読んでみたい」などと秘密がところどころに潜んでいる。『ミカグラ』のTwitter公式アカウントであるミカグラ学園新聞部(@mikaguragakuen)でも、キャラのラフや校章のデザインなどを小出しに公開している。これが、「もっと知りたい」という気持ちを駆り立てる。

 

 

 

 どんな作品にも”考察厨”が現れては、細かい設定に目をつける人たちが存在するが、『ミカグラ』は彼らを喜ばせる情報の断片が多く存在している。

  ちなみに一巻は、部活ごとの対抗戦に突入したところで終わる。どう話が展開していくか、気になって仕方ない。

 

第2の理由~「萌え豚女子」という新しいキャラ類型の誕生

 

 続いて、本作がボカロ小説の成熟を示している第二の理由をあげたい。それは、これまでにない新しいキャラクター造形を若者向けノベルに持ち込んだことだ。具体的に言うと、主人公のエルナのことである。彼女は、巫女の服を着たひみちゃんにハァハァしたり、彼女とイチャイチャする妄想を膨らませたり、美人の先輩・御神楽星鎖を女神と呼んで崇拝したりと、いわゆる「萌え豚」系女子として描かれている。

 

寮の中から、ぴょこんと登場したのはさっき新入生歓迎パーティーで見たばっかりのちっこい先輩。八坂ひみちゃんだ!

うおお、と興奮が抑えきれない。なにこの先輩、やっぱり誘拐したい! ビミィが不審者扱いされてたけどこれじゃ私の方が立派な不審者みたいになってるんですけど!?

ぎゅむむっ。無意識に、反射的に抱き締めてしまう。挨拶よりも先に、自己紹介よりも早く。だって、こんなの我慢できるわけない……。

(P134)

 

 ある男性に感想を聞くと、「現実感なさすぎだけど、いたらおもしろいww」と言っていたが、私なんかは萌え絵にハァハァしたり、ブヒブヒしながらエロゲーをプレイしたりする人間なので、エルナの女の子の愛で方には共感できる。

 

 まあ、そうは言っても、「アニメが好きで、エロゲーやってて、マンガ読みまくってて、別に腐女子とは違うんだけど、俺らと同じ感覚で女の子にハァハァするそんな理想みたいな女の子いるわけねぇだろ、このクソ!!!!」と思っている方もいるかもしれない。だが実際には、こういう女子は割と少なくない数で観測できる印象がある。今やアニメやマンガを読む女の子は珍しくないし、二次創作も男性と変わらず盛り上がっている。エルナの喋り方は、かなり最近のJCやJKを意識しているようだが、彼女のように「萌え」ている10代の子は増えているのではないだろうか。俺の趣味を分かってくれる天使(しかも年下)が、三次元にも誕生し始めた……ということで、どうでしょうか?(おじさま方←)

 

 ちなみに、そんな萌え豚女子を大々的に世に知らしめた作品といえば、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』だろう。高坂桐乃は、萌えアニメ好きでエロゲーマーな妹として描かれた。しかし、比較的男性読者の多いラノベで描かれた高坂桐乃が、「”妹”を都合よく男性のオカズにするために萌え豚女子」に仕立て上げられたのに対して、女性ファンが多いボカロ小説の一宮エルナは、「萌え豚女子が三次元に存在をあらわにしはじめたこと」を淡々と描写しているのが面白い。

 

『ミカグラ』で描かれる主人公は、桐乃のような特別な少女ではないし、そうかと言って百合でも日常系でもない。男性のために、ひいては社会や世界のために頑張る女の子ではなく、自分のために頑張る女の子だ。エルナは、そんな女の子の憧れの対象になりうるし、少女漫画とラノベの中間となる新しいキャラ像ではないかとも思う。

 

第3の理由~小説としての完成度の高さとボカロ小説ならではの魅力

 

 そして、最後の成熟を示す理由として、キャラクターだけでなく、ストーリー自体がかなり作り込まれていることをあげたいと思う。単なるキャラクター小説とは違い、文体や設定まで手が込んでいる。エルナのハイテンションな描写を基軸にしながら、ところどころにネタを織り交ぜつつ、始めから終わりまでテンポよく読ませてくれるのだ。

 

 もちろん、ボカロ小説ならではの魅力も健在だ。『ミカグラ』の原曲があるおかげで、スイスイ読み進めることもできる。歌詞がところどころに織り込まれていて、「こういうストーリーがあったのか」とゲームのように伏線を回収していく。この楽しさは、ボカロ小説ならでは、だ。

 

 

『ミカグラ』は、発売日の翌日には増版が決定するほどの異例の速さで流行っている。中高生が主な購買層となっているようだが、私の周りでは「これはストーリーも設定も面白い」と年齢問わず、好評だ。

 ボカロ小説が生まれて、もう三年近く経った。ニコニコ動画に投稿されているボカロ楽曲の変遷と合わせて、『ミカグラ』を読んでみると、ファン層やキャラの使い方も変化してきたように思う。ボカロ小説は今後も続々と発売されるようなので、いずれも期待が高まる。

 

ボーカロイド史論 ~物語化するボカロ楽曲~(「ねとぽよ(SP2) ニコニコ特集号」所収)

 

 読み終えてから、改めて動画を見ると、新たな発見があるはずだ。

 

 

 

=====

「もっとボカロ文化について知りたい!」という方は、

ニコニコ動画やボカロについて特集した「ねとぽよSP2~ニコニコ特集号~」もぜひご覧ください!

20130425221655

商品一覧 | ねとぽよショップ

 

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加