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 僕は就活生だった頃、元々はゲーム業界志望だった。その頃、いつも冒険的なことばかりやっている、とあるゲーム会社に、僕はある企画書を出した。それは、一つ一つのゲームセンターを都市国家のように扱い、シミュレーションゲーム、FPS、艦隊戦を同時に行うゲームセンター対抗のゲームだった。当時の僕は、ゲームセンターは人間をヒーローにする場所だと思っていて、このゲームを通じて、各ゲームセンターにそれが生まれることを期待していた。

 ところが、面接で僕は「これはゲームの企画書ではないよね」と社員にマジレスされた。どうやら、アーケードのショップ運営の企画と認識されたようだった。そして、最終面接では「君、本当にアーケード志望でいいの?」と何度も確認された。

 結局、いまいる会社の面接が面白かった僕は、そのままそこに捕まってしまい、ゲーム業界には行かなかった。でも、あの企画書は僕が考えていたゲームの理想を詰め込んだものだった。当時は面接官にこれがゲームなのだということを伝えるのに苦労したが、いまなら簡単に答えることができる。あれは、ARG=代替現実ゲームの企画書だったのだ。

 そういうわけで、神奈川県横浜市のTAITO直営の「横濱はじめて物語店」でプレス発表会が行われた、SCRAPの新企画――ゲームセンター内に脱出ゲームのスペースを常設するというもの――には、ぜひ足を運ばなければいけないと思ったのだった。

 

リアル脱出ゲーム OFFICIAL WEB SITE | 伝説のゲームセンターからの脱出 – 公演情報

 

「今のゲームセンターにはついていけない」イベント前に、TAITOの常務とSCRAP代表が対談

 

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談笑する両氏。左がTAITOの石井光一常務、右がSCRAPの加藤社長。

 

「カードゲームが入って来てからの、ゲームセンターにはついていけない」――。

 イベント前には、簡単な対談が開かれた。そこでは、「スペースインベーダー」(1978)を生んだTAITOの石井光一常務と、「リアル脱出ゲーム」を手がけるSCRAPの加藤社長が、笑いながら話していた。

 アーケードゲームは、ゲームをリアルな空間でやるもの。TAITOは、その歴史を古くから見守ってきた。対するSCRAPは、デジタルゲームを愛しながら、それを「リアル脱出ゲーム」という形でリアルの場に持ち込んだ。面白いことに、その両者がともにいまのアーケードゲームの複雑さに問題を感じていたのである。ゲームセンターはいつしか、リピーターを重視するあまり、「一見さんお断り」な場所になっていたのかもしれない。その象徴が、彼らにとっては「カードゲーム」だったのだろう。

 そんな彼らが手を組んで、まさにゲームセンターの次の形を探ったのだ。

 

「リアル脱出ゲームという筐体」(TAITOの石井光一常務)

 

 今回の企画意図は、一つの巨大な筐体としての「脱出ゲーム」を、TAITO直営のゲームセンターに置く試みのようだ。複雑になりすぎたアーケードゲームに脱落した人でも遊べるような、新しい「ゲームの形」を目指しているという。

 

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プリクラスペースだった場所をどけて作られたという超巨大「筐体」

 

 今回のテストケースがうまく行けば、全国のゲームセンターへ、リアル脱出ゲームの「筐体」が配備される光景が見られるかもしれない。発表ではそんな夢が語られる。加藤社長は、こう豪語していた。

「デジタルゲームは制作に何年もかかるが、リアル脱出ゲームなら一月半で作れる」

 

――期待は高まるばかりだった。

 

名古屋撃ちしないと脱出できない!?

 

 二人の対談のあとには、なんとプレス体験会があり、実際に「脱出する」ことができた。1回10分500円で、最大12人が同時参加できる。SCRAP加藤社長は、「ただし、確実に1回では解けません!」と何度も強調していた。

 

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 参加者の前には、インベーダーゲームの筐体が3つ置かれる。これを操作したときが、一番どきどきした。ネタバレ厳禁なので詳しくは言えないのだが、まさか脱出ゲームで、名古屋撃ちが必要になるとは……(棒読み)。僕は幸い、熟練プレイヤーの多い「なぞとも」の人たちと一緒に回れたこともあって、4回目でクリアすることができた。それでも最後、偶然の助けがあってのクリアなので……5~6回くらいが標準クリア回数ではないか。

 

※ 「なぞとも」は、全国各地のリアルゲーム情報を集めている総合サイトらしい。
http://nazotomo.wonderq.jp/

 

ま、詳しくは書けない。行ってみてのお楽しみである。

 

「伝説のゲームセンター」は、「ゲームの歴史」に名を残せるか

 

 さて、先にも書いたように、このプレス発表会を、僕は何週間も前から楽しみにしていた。なにしろ舞台はゲームセンターである。リアル脱出ゲームは、明らかにデジタルゲームをリアルで模倣することから出発している。そんな彼らが、どのようにデジタルゲームを回収するのか、とても興味があった。

 体験会が始まる前の質疑応答でも、その期待を加藤社長へ直接ぶつけてみた。「ゲームの中にゲームを取り込むことに、何か気をつかった点はありましたか?」と訊ねると、

 

特に大変さは感じなかった。そもそも、ゲームセンターでやるならこうするしかないと思った。むしろ、中にあるゲームの重要度を上げること、ゲームセンターをもっと好きになってもらえるように気をつけた」

 

という回答が返ってきた。実際にやってみて、これしかない内容だと僕は思った。というのも、詳しくは言えないが、このゲームは、リアルな場での脱出ゲームに、さらにもう一つゲームが組み込まれた構造になっているのだ。

 

 色々と意見はあるようだが、僕はリアル脱出ゲームを、ARGのひとつだと見ている。そして、ARGとは、僕の考えでは、基本的には「二次創作的なもの」としてしか成立しないものだ(※)。「リアル脱出ゲーム」もまた、その名の通りにウェブ上で流行っていた「脱出ゲーム」をリアルに持ってきている。海外の成功事例も同様で、基本的にはマーケティング手法として、コンテンツとのタイアップで行われてきた。SCRAP自体も、有力な版権とタイアップしながら躍進している。

 その点で、この脱出ゲームは、ある意味ではイチからの創作に見える。しかし、それはあり得ない。彼らは、一体どこからモチーフを借りてきたのか。質疑応答で、僕は僕なりの仮説をぶつけた。「ゲームセンターの精神や歴史が、10分間に詰まった内容だと考えていいでしょうか?」と訊ねた僕に、加藤社長は笑って、「全くその通りです」と答えてくれた。

 

 実は僕は、「歴史」というものが、ARGのようなゲームに強力なイメージを提供してくれる可能性が高いと考えている。これは以前、「艦これ」について、ゲームライターの徳岡正肇さんとお話ししたときに啓発されたものである。実際、僕が過去に作ったARGでは、僕はRPGの「歴史」を引用した。

 

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この本に、自分の作ったARGの内容をレポートしています。「なぞとも」の人にも「ねとぽよ2号 ARG特集読んでますよ、参考になりました!」と言われました。ARGの歴史についての重要な参考文献ですよ!

 

 事実、このゲームの目的は、発見者が「ゲームの歴史に名を残すことができる」筐体を探しだすことであった。エンディングも、インベーダーゲームから始まるアーケードゲームの歴史をなぞったものだ。そして、その長い歴史の中に今回の「リアル脱出ゲームセンターシリーズ」もつらなっていた。「ゲームの歴史」そのものをモチーフにした「リアル脱出ゲームセンター」――それは果たして、エンディング通り、ゲームの「歴史に残る」のかどうか。僕はそれを見届けたいと思った。

 

 

 

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会場になったゲーセンの中の光景。雰囲気があって、場所として魅力的だった。

 

※ ちなみに、版権を使用せず、自前のイベントスペースを抱えて行うARGの成功例もなくはない。特に、SCRAPが行っている「時空研究所からの脱出」については、極めて重要な事例であると同時に、彼らの最高傑作だと僕は思っている。いずれ記事を書いてみたいと思う。

 

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