渋谷のラブホ街で「恋の渦」を観てきた

 

「モテキ」の大根仁監督の最新映画「恋の渦」が、ひそかに好評を博しています。私の周囲でも、多くの人が足を運んでいます。彼らに共通しているのは、微妙なニュアンスの絶賛。「超最高に最悪な映画だから見た方がいい」「一緒に見に行ったカップルが、そのまま別れたと聞いて、面白かった」、そして「今年の邦画の裏最高傑作」――。

 

 そこで私も、渋谷駅前のラブホ街に近い、オーディトリウム渋谷という小さな映画館まで足を伸ばしました。観終えてふと、ケータイを覗くと、23時近く。カップルで来てる人もいたし、女の子同士で観てる人もいましたが、どういう気分だったのでしょうか。

 

 というわけで、まずはこの映画の感想を一言。

 

なんて生々しいんだ!

 

 ネットユーザー的には、「DQN乙」と言うべき場面でなのでしょうが、私には言えないなと思ってしまいました。こっそり浮気してるヤツ、俺様の意見が絶対な男、彼氏の言いなりになってる女、クソビッチ、水商売してるやつ、好きな子に連絡しまくって空回りしてるヤツ……はい、みんな知ってる。知ってるよ!

 普段は恋のキタナイ部分から、あえて目を伏せて生きてるのに……。そう、「恋の渦」にあるのは、少女漫画に出てくるような美しい恋愛ではなく、私たちの周囲にありふれている等身大の恋愛でした。

 

低予算4日間で撮られたDQNたちの物語

 

 この作品は、劇団ポツドールの主宰・三浦大輔さんが脚本・原作を手がけた舞台「恋の渦」(2006年)を映画化したものだそうです。

 ポツドールは、AVの撮影現場、土方のたまり場と化した食堂、スナックなど、あまり表の世界には出てこない場所を舞台に、テーマから演出まで「リアル」さにこだわった舞台を製作している劇団なのだそうです。「恋の渦」も、本音と嘘が入り混じった男女6人の恋をめぐる室内劇で、「リアル」な迫力は健在。今作は、第50回岸田國士戯曲賞を受賞しています。

 

 そんなこの作品の映画化を手がけたのは、マンガやテレビドラマが話題になった「モテキ」(2011年)の映画監督・大根仁さん。彼が長編映画を手掛けるのは、「モテキ」に続いて2作目。初めてのインディーズ映画だそうです。「モテキ」でも、サブカルクソ野郎の童貞が恋する姿が生々しく描かれましたが、その人間の俗な欲望をリアルに映す手法は「恋の渦」にも活かされています。

 

 

 実はこの作品、実践映画塾「シネマ☆インパクト」という、限られた予算と期間で作品を作るプロジェクトの一環として撮影されたそうです。確かにかなり映像が粗く、撮影も屋内だけです。なんでも4日間で撮影を終えたそうです。でも、この映像の荒っぽさと、(後述するような)ケータイ電話を軸に場面がぐるぐる切り替わっていく演出が、自分の記憶をありありと甦らせ、より一層の生々しい印象を与えます。

 

 映画は、コージとトモコが同棲する一室での、仲よさげな数名の男女が集まった部屋コンから始まります。ちなみに、始まって1分も経たずにわかりますが、完全にDQNの飲み会(しかも、鍋パ)で大変にうざいです。

 

 しかも、部屋コンを開いたコージという男の目的は、友人のブサイク男・オサムに彼女を作ることだったのですが、その場に現れたトモコの親友は……ブス! そこから冒頭はかなり長々と、その微妙な空気をみんなでごまかしながら、ウェーイしている場面が延々と続きます。各々が別の内容をしゃべり、ガヤガヤしている様子は、ちょっと聞き取りづらいです(飲み会ってそういうものですが)。

 

キャプチャ 

登場人物の人間関係図(『恋の渦』公式サイトより)

 

 しかし、ここで席を立ってはダメ。話が面白くなるのは、ここからです。この飲み会が終わったあとから、彼らはまさに「恋の渦」に巻き込まれていくのです。各々の登場人物が住む部屋を往復しながら、彼らの表面的な関係と、その裏にあるドロドロの恋愛模様が次々に暴き出されていきます。伏線が丁寧に張られた脚本で、ちょっとした謎解きミステリーの趣もある。具体的なネタバレはやめておきますが、恋愛あるあるがふんだんに盛り込まれた、とても面白い作品です。

 

ガラケーと生きてきた”私たち”の恋愛映画

 

 さて、そんなこの映画ですが、私は一つ気になったことがありました。それは、登場人物が、リアルでの表面的なお喋りの裏で、ガラケーのメールで頻繁にやりとりしていることです。そう、「恋の渦」で描かれる「人間関係の裏側」を成立させているのは、実はガラケーなのです。

 

 彼らの恋愛シーンでは、ガラケーがとても重要な役割を果たしています。告白した女の子から返事がない男は、ガラケー片手にメールを待ち続けます。彼氏の浮気を疑う女の子は、彼氏のケータイを覗き込もうとするし、彼氏に自分がバイトしてる最中に写メを送ることを要求します。というかもう、登場人物は恋愛のドロドロ話をしながらも、一方でガラケーをいじりまくってます。この映画は、「ガラケーユーザたちの映画」なのです。そもそも舞台版「恋の渦」の初演は2006年で、スマホもTwitterもFacebookも、まだほとんどの人が使っていません。

 

 でも、それが結果的に、私たちみんなが楽しめる要素を提供してくれている気がします。もちろん、登場人物たちに感情移入できない人もいるでしょう。でも、彼らがガラケーを使っている場面なら、私たちの誰もが「あるある」という気持ちになると思います。例えば、この映画にでてくるのは、こんなシーンです。

 

  • 会ってる間以外は、ずっとガラケーを手に、メールで繋がり続けている。
  • ガラケーには既読機能もないから、永遠にメール催促しまくるしかない。
  • 新着メッセージはありません」「早くメール返せよ」って逆ギレ。
  • 自分が思ってること伝わってるのか分からなくて、どんどん不安になって、言い過ぎたかな、怒っちゃったかな、って電話をかける。
  • 自分がバイトに行ってる間、浮気してないか不安だから写メ送ってねとお願いする。

 

メールが返ってこない間の不安

そのおかげで育つ恋人へのキモチ

リアルでデートしたときに、文字でのやりとりでは見えない新しい一面を知って、相手の素顔に胸キュン――。

 

少なくとも、この映画に出てくるガラケーをめぐる心理だけは、私たちの共通体験そのものだと思います。「DQNの恋愛の話でしょ? 関係ないわーくだらんわー」と言わず、ぜひ見てもらいたいです。

 

もし彼らがスマホを使うようになったら?

 

 ところで、この映画を観終わってから、もし彼らの世界にTwitterとかLINEが入ってきたら、どうなっちゃうんだろうと、私は妄想を繰り広げてしまいました。

 

タカシはきっと、Twitterで過去までさかのぼってネトストするんでしょ。

サトミはきっと、パスワード入手してLINEとDMチェックするんでしょ。

ユウタはきっと、Facebookで元カノが誰か特定して連絡取ってないか確かめるんでしょ。

コージは絶対、Facebookで友達からのコメントやいいね!を監視するんでしょ……etc.

 

そして、きっと彼らは、「なんでLINE既読にならないのに、ツイートしてんの! マジ激おこ」って喧嘩を始めるんだと思います。

 

 こう考えてみると、ガラケーの特徴は「相手との空白の時間」があることだったなあ、と思います。

 

 メールが届かないけど、何かあったのかな。自分と一緒にいない間、相手が自分についてどう言ってるか気になる。私がバイトに行ってる間、彼は何してるんだろう。こんな不安の合間を縫って、恋愛が育まれていた気がします。一方で、その不安につけこんで”浮気”をしたとしても、なぜかバレてしまうのですが。ま、ガラケーって、基本リアルの人間同士でつながるものだし。

 

 それに対して、スマホでは「相手との空白の時間」がなくなり、ときにはかつて空白だった部分を偽造できるようになります。なにせ、FacebookのようなSNSをさかのぼれば、”過去”は丸見え。Twitterを見れば、”今”も丸見え。その上、オフ会で同じ趣味の異性と出会える可能性は格段に上昇。でも、ナオキが他の女といるときに自撮り写メを彼女に送ったように、TwitterやFacebookでウソの書き込みをリアルタイムにされたら、簡単に騙されてしまいそう。

 

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タカシ風に、LINEでしつこく連絡してくる人を再現してみた(相手は浮気中かもしれませんね!)

 

 スマホのせいで空白の時間がなくなると、彼がラーメンとカレーが好きなこととかなんてフォローすればすぐに分かるし、なんだかときめきも減ってしまうようです。LINEの既読無視はイライラと不安が募るけど、TwitterもFacebookも監視されて、しつこく連絡されたらマジうざい。スマホはもちろん便利だし、今や離れられない第二の恋人ですが、「距離感がなくなる」という決定的な副作用もついてくる気がしています。じゃあ、ガラケー時代の恋愛はひたすら良かったのかというと……ぜひ、映画館まで足を運んで、自分の目で確かめてみてください。

 

 いずれにせよ、ガラケーでの恋愛をしっかり描写した作品って多くなかったし、ましてやスマホ時代の恋愛を描いた作品も、まだ少ない。「恋の渦」は、ガラケーからスマホに移行する今を生きている私たちに、色んなことを考えさせてくれると思いました。

 

最後にまとめ

 ちなみに先日、日本ではまだガラケー人気が高いという話を見ました。

 

インターネット利用者数、人口普及率の双方が昨年に引き続き増加-総務省

 

 特に地方では、ガラケーを使っている人が多いという話を聞きます。地方ユーザやギャルがFacebookでガンガン写真を上げまくってるという話を聞いたりもするのですが、ソーシャルメディアが本当に普及していくのは、まだまだ先なのかもしれません。

 

「恋の渦」は、今年2013年3月の上映が大きな反響を呼び、7月にシネクイント(東京)にて単体の劇場公開作品として、レイトショー公開。シネクイントは227席しかない小さな映画館ですが、公開初日から、連日キャパオーバーで立ち見が出るほどの大盛況だったそうです。現在は、渋谷、京都、静岡、広島、大阪など、主要都市でも上映されています。私が観に行ったのは、その渋谷での上映でした。インディーズ映画とは思えない人気ぶりのこの作品、ぜひみなさんも見てみてください。

 

 

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