(たぶん)バンギャルの、なおりんです。

 

 ビジュアル系バンドへ魂を捧げた“超偏愛的”コミックエッセイ――蟹めんまさんの人気ブログが「バンギャルちゃんの日常」として書籍化されたのは、昨年2012年の9月でした。みんな知っているようで、実はあまり知らないバンギャルたちの生態をコミカルに描いたこの漫画は、私の周囲のこうした文化に疎い人たちの間でも、話題になっていました、

 それから1年経った今年2013年の9月27日、続編となる「バンギャルちゃんの日常」の二巻が発売されました。今回は、なんと「KERA」編集部への取材や遠征の様子が漫画レポートされていて、やっぱりとてもおもしろいです。

 

バンギャルちゃんの日常 2

 

 さて、今回は、そんな「バンギャルちゃんの日常」の作者である蟹めんまさんと、本にも登場するV系ライターの藤谷千明さんをお呼びして、バンギャル座談会を開いてみました。

 そこで話されたのは、マンガではあまり触れられなかった、バンギャルちゃんとネットの話――Yahoo!ジオシティーズ、HP、絵チャ、前略、そして匿名掲示板――そう、バンギャルちゃんが育った時代は、インターネットが日本に普及していく時代でもあったのですね。そして、当時のネット文化の多くと同様にちょっとアングラだった世界は、ゼロ年代後半のニコニコ動画やアメブロ、Twitter、そしてゴールデンボンバーの登場などで変化していきます。その中で、バンギャルの文化・コミュニティはどう変わってきたのか。

 

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座談会出席者のピグでの姿。右から、蟹めんま、藤谷千明、なおりん。

 

 そんなことを、蟹めんまさんと藤谷千明さんと話しました。ネット文化やウェブビジネスに興味のある方にも、なぜ、前略やニコ動やアメーバのようなサービスに若い子が惹かれていったのかが見えて、きっと興味のわく座談会になっていると思います。

 第1回目の今回は、まずは座談会参加者の自己紹介と『バンギャルちゃんの日常』がいかに描かれたかをご紹介します。ネットの話が本格的に始まるのは次回からですが、ぜひぜひご覧ください。

 

 

 【構成:ねとぽよ】

まずは自己紹介から

 

――まずは、自己紹介から行きましょう。

 

なおりん では、まずは私から。ねとぽよの、なおりんです。今は19歳で、高校生の時に都内のマイナーバンドに通ってました。最初にV系を知ったのは、2006年の中1の時です。

 

藤谷千明&蟹めんま おおおお……! 「ネオギャ」(※)だ。  (※ ゼロ年代以降のV系バンドを指す「ネオヴィジュアル系」の世代のバンギャルのこと)

 


なおりん
 です……かね(笑)。V系を知ったキッカケは、アリス九號.(Alice Nine)が表紙の「SHOXX」でした。アンカフェ(アンティック‐喫茶店‐)のみくが、男性の大事なところについてシモネタトークをしていて(笑)、「えええ男の人なの?」と。
 私の世代だと、V系にハマるきっかけは、the GazettEとSIDとアリス九號.とアンカフェなんですよ。LUNA SEAとかは、もはやV系の枠にはとどまらない神々しい存在というイメージがついちゃってますね。

 

藤谷千明&蟹めんま うーん……若い。

 

なおりん 本格的にバンギャルになったのは、高1の時ですね。ドマイナーなバンド(※)のファンになったのが大きかったです。あ、当時のチケットを持ってきたので、ぜひ見てください。

(※インディーズバンドの知名度の低いバンドのこと。)

 

 

tickets_mozaiku
「チケットが池袋CYBERと高田馬場エリアばかりですね」(藤谷)「エリアのニ柵の下手が大好きです。新宿ホリデーも、無料ライブの時には行ったり」(なおりん)「ホリデーはたまに初心に帰るために行きますね」(蟹めんま)

 

 基本的には、常連10人くらいのマイナーバンドを育てていくことが楽しくてバンギャルをやってました。

 他のバンドだと、最近は有名になられた(笑)ゴールデンボンバーなんかは、小さい箱で対バンをやっていた頃も見てます。毎月ワンマンをやっていた時期があって、後ろの方で友達と悪ノリしに行ってました。当時から、ライブもファンも面白かったんですよ。メンバーが貧乏で有名だったんですが、バンギャルの子たちのメンバーへの差し入れは、マクドナルドのタダ券とかの食べ物券だと喜ばれたり(笑)。

 そんな感じだったのですが、大学受験の時に上がってしまって、今は昔の友だちに誘われた時に、たまに見に行くくらいですね。なので、既にバンギャルは私の「青春の思い出」になっているのですが、ぜひよろしくお願いいたします。

 

藤谷千明 フリーライターをやってる藤谷です。81年生まれの32歳で、なおりんさんとはほぼ一回り年の差があるので、今日は世代の違いを感じるのを楽しみに来ました(笑)。
 私がV系に興味を持つようになったきっかけは「COUNT DOWN TV(TBS系)」で、元々チャート番組を観るのが好きだったので毎週チェックしていたんです。そしたらある週、黒夢とLUNA SEAが同時にベスト10入りしていて、そこで流れたMVを見て「これだ!」と。ただ、高校を卒業するまで山口県に住んでいたので、ライブには数えるほどしか行けなくて。山口県がどのくらいヴィジュアル系不毛地帯かというと、例えば、「全国ツアー」と銘打っても広島と福岡の間に挟まれて飛ばされてしまうことが多かったんです。当時はネットもなかったから、無理やり地域外の局のラジオ放送を聞こうと頑張ったり……。

 

蟹めんま それやると、北朝鮮の放送が聞こえてきたりして(笑)

 

なおりん そっか。そんな時代なんですね……。

 

藤谷千明 それから22歳の時に東京に来て、インディーズバンドとかのライブに頻繁に行くようになりました。それまではメジャーデビューしてるような有名バンドのライブしか行ったことがなかったので、なおりんさんの仰るような「ドマイナー」を観るようになったのはそこからですね。

 

――そして、『バンギャルちゃんの日常』の著者である、蟹めんまさんですね。

 

蟹めんま 漫画家の蟹めんまと申します。出身は奈良県で、今は28歳です。キッカケは、隣のクラスにいたバンギャルの子の机の上にあった「SHOXX」を見て、「こいつらは男なのか女なのか……人間か?」と、衝撃を受けたことです。

 

バンギャルちゃんの日常

 

 最初はLa’cryma Christiから入って、DIR EN GREYにもハマったんです。ただ、当時は奈良にいてお金もなかったので、ヴィジュアル系と名のつくものなら手当たりしだいに聴いてました。「このバンドだけ!」というよりは、目に入るものをとにかく聴いていましたね。
 私はとにかく、「にわかバンギャル」でいるのが嫌で、ちゃんとしたバンギャルになりたかったんです。大阪に行くと、ちゃんとバンギャルをやってるお姉さんたちがいて、そこに仲間入りするために、ヴィジュアル系っぽいことなら何でもしていた感じです。

 

 

「バンギャルになりたい」はネット以降の心理?

 

――藤谷さんの世代は少し年上ですが、「バンギャルになりたい」という感覚はあったんですか?

 

藤谷千明 私の学生時代は、素敵なコスプレをしたお姉さんに憧れたり、「私達のマナーが悪いとバンドが悪く言われるから、ゴミを拾って帰ろう」みたいな心がけもありましたけど、「バンギャルになりたい」みたいな心理はあまりなかった記憶があります。自分の中に「バンギャル」という概念がなかったというか。ネットのない時代ですし、これは地域差が大きいかもしれません。なにせ田舎だったので。

 

蟹めんま なんか、私にとっては「部活動」に近い感じだったので、彼女たちは「格好いい先輩」みたいな存在でした。
 あと、すでにネットも登場していたので、集会にネット上で有名なバンギャルのお姉さんがいると、「おおおお! あの人が来ている!」となるんです。当時は、Yahoo!ジオシティーズによくコスプレサイトがあって、そういう人の写真を撮らせてもらって、お近づきになれたら幸せ、みたいな。

 

――すでにファンがファンに憧れるような、コミュニティができはじめていたんですね。

 

蟹めんま 私はコスプレをしていたのですが、実は最初のうちは、コスプレをしている素敵なお姉さんと仲良くなるのが目的だったんです。もちろん、コスプレ自体も楽しいんですが、そのコミュニティに入って、みんなとバンギャルトークがしたかったんです。
 自分の中だけに、そのバンドが好きという気持ちを留めておけなくて、みんなと共有したかったんですね。

 

藤谷千明 昔はTVや雑誌、CDなどのマスメディアからの情報を受け取っていれば「ファンです」というのが成立したと思うんです。だけど、最近の子たちはライブに行ったりネットで発言したりと「参加型」「共感型」になっているような……。

 

――ライブに行かないバンギャルを「音源ギャ」と呼ぶ言い方があると聞きました。

 

藤谷千明 差異化ゲームみたいなものはどのジャンルにでもあるんじゃないですかね。「アイツはこのアニメの原作読んでないからニワカ」みたいなのは、例えばオタクの世界にもあるでしょう。
「音源ギャ(CDは買うけどライブには行かない層)」「ヴィジュヲタ(V系をオタク的に消費する層)」みたいな、消費の仕方をあらわす言葉はゼロ年代以降、広まった言葉なのかな。そもそも昔は他人がどういう楽しみ方をしてるかもよくわからなかったし、ネット上の個人サイトを見てはじめて「この人はCD買ってるけどライブに行ってない」とか見えるようになったわけで。
 そもそも「バンギャル」という言葉じたい、昔は知らなくて。90年代からLUNE SEAのファンを「SLAVE」と呼ぶような、そのバンドのファンを指す言葉はありましたけど、当時はヴィジュアル系のファン全般を指す言葉はあまり必要とされてなかったのかなあ? コアな人達の間ではそれ以前から使われていたのかもしれませんが、少なくとも10代の時に、自分たちのことを「バンギャル」と呼ぶ人に会ったことは、私はありませんでした

 ヴィジュアル系ファンのコミュニティがネットの浸透により見えやすくなったからこそ、「○○ファン」ではなく、もっと意味の広い「バンギャル」という言葉が必要になったのかなと思います。

 

蟹めんま 昔は、”バンギャル”って言葉が侮蔑用語ぽかったんですよね。

 

なおりん そういう「バンギャルちゃん(笑)」みたいなニュアンスって、まだ残ってる感じはありますか?

 

藤谷千明 むしろ、若い人のTwitterのプロフィール欄を見ると「なりたいもの」として認識されてることも多いような……? 「バンギャル目指してます!」的な。あれはゴールデンボンバーの歌広場さんがバンギャルを自称している影響もあるのかな。

 

蟹めんま 「V系勉強中」とかね。

 

藤谷千明 「おたく」や「腐女子」も差別用語だったり自虐用語だった部分があるじゃないですか、でも今は広まりすぎて色んな捉え方がある。同じことが起きてるのかなとも思います。

 

――聞いていると、3人の世代差が出ていますね。32歳の藤谷さんは、かなりコンテンツとして楽曲を聴いていて、28歳の蟹めんまさんは音楽も大事だけどコミュニティも大事という感じで、19歳のなおりんになると、もうひたすらコミュニティの話。

 

なおりん 私は、もう完全にコミュニティをひたすら求めてましたね。

 

藤谷千明 自分が地方在住だったからかもしれませんが、当時はテレビやラジオ、雑誌で一方的にコンテンツを楽しんでいました。ケータイやポケベルはまだ高嶺の花だし、ファン集会をやっている都会に行くにも交通費がかさむし、ファン同士の文通やミュージシャンに手紙を出すにも80円かかりますし(笑)。交通費も通信費も、すべてのコミュニケーションにかかるコストが今よりもずっと高かったので。
 それがインターネットが常時接続の時代になったら、ファンの方からも気軽に情報を発信できるようになって、コミュニティが活性化していく。そういうファン文化を取り入れるバンドも出てきて、たとえば最近だとゴールデンボンバーの「†ザ・V系っぽい曲†」もファンの文化や心理を歌詞に取り入れています。そういう形で、双方向の文化になっているのでは。

 

『バンギャルちゃんの日常』が生まれた経緯

 

――そんな風にインターネットの影響で生まれたバンギャルの文化を描いたのが、この『バンギャルちゃんの日常』ですね……というのは、少々強引でしょうか(笑)。本書を作られた経緯を少し聞かせていただけますか。

 

なおりん この『バンギャルちゃんの日常』は、元々はアメブロで公開されていたんですよね。

 

kanimenmablog
ブログ上(http://ameblo.jp/menmanomanga/)で漫画の新作が公開されている。

 

蟹めんま ちょうど脱サラをした頃で、フリーのイラストレーターでやっていけないかと思っていた時期でした。その頃に、かつて好きだったV系バンドの曲をあらためて聴くようになって、またバンギャルに戻りたいなと思ったんです。それで、この作品をmixiで書きはじめました。

 その時は、いずれコミケで売ろうかくらいには思っていたけれど、本にしようとは全然思っていませんでした。だけど、それを見た大学の先輩が「もっと多くの人に見せた方がいい」と言ってくれて、「じゃあ……」とアメブロに公開したら、すぐにエンターブレイン(現在はKADOKAWA)の編集者の方が声をかけてくださったんです。書籍化は結構早い段階で決まりました。

 

――この本で伝えたかったことは、どういう部分にあったんですか?

 

蟹めんま 社会人になってから、「自分が人生で一番元気だったのは、バンギャルだった頃だなあ」と、ひしひしと思ったんですね(笑)

 自分の場合は、しんどくなったり窮地に追い込まれると、ヴィジュアル系を聴くんです。小中学生は思春期だったから、もう毎日窮地だったのでずっと聴いていたし、大学受験生の時も聴いていたし、大学でバンギャルを離れても、やっぱり卒業制作の時には聴いていた。
 そのことを社会人になって思い返してみて、ヴィジュアル系の文化は楽しかったな、と。しかも、当時はお給料がもらえるわけでもないのに、一生懸命イラストやらサイトやらコス服やらを作っていた。全力で「才能の無駄遣い」をしていたなあ、と思い出したんです。

 あと、これまでのメディアで描かれてきたバンギャル像って、非行に走ったり、男女関係が過激だったりする面がすごく強調されてるんですよ。
「そんなことないよ!」と否定しても、「またバンギャが吠えてる」と言われるだけだし、じゃあ違う世界をマンガで描いてやろうと。実際、ド田舎に住んでいてお金も非行に走る勇気も無かった私は、過激なことは別世界だったし、実際周りには私みたいなバンギャルも多かったので、地味だった自分の日常をありのまま描くことにしました。

 あと、バンギャルって見た目は奇抜かもしれないけど、実は裏で頑張って裁縫をやってたり、必死に絵を描いてたりして、意外と健気で地味なんだよ、というのも伝えたいことでした。不健康で退廃的な文化と言われがちだけど、そうじゃない面も見て欲しかったんです。最近はライブで踊るから、運動にもなって健康にいいし(笑)

 

――こういう採り上げ方は、これまでになかったんですか?

 

藤谷千明 ヴィジュアル系を扱った作品は……例えば有名どころでは、雨宮処凛さんの「バンギャル ア ゴーゴー(講談社)」、大槻ケンヂさんのエッセイや小説にも今で言うバンギャルみたいなファンは出てきますよね。もちろんああいうバンギャルもいるんですけど、めんまさんのおっしゃるように地味なバンギャルも多いです。

 

バンギャル ア ゴーゴー 上 ロッキン・ホース・バレリーナ (角川文庫)

 

 この本は、バンギャルのことを描いた漫画でもあるけど、地方で文化をこじらせている地味な人だったら、身に覚えのあることを描いていると思うんです。郊外のショッピングセンターのヴィレヴァンで目当ての物をやっと見つけて、ニヤニヤしながら買ってる、みたいな層。都会の人から見たら「本当の文化」ではないかもしれないし、地元のヤンキー層からは小馬鹿にされたりするけど、全国的に見たら決して少なくはない、サイレントマジョリティを描いた作品だと思います

 

蟹めんま それに、私なんかはコミュ障だったけど、ただヴィジュアル系が好きで、もっと知りたいというだけで、どんどん外に出るようになったし、挙動不審になりながらも初対面の人にも話しかけるようにもなりました。そういう人は他にもいると思うんです。

 

なおりん 私は実は、一時期ひきこもりをしていたのですが、脱出してすぐに向かったのがバンギャルでしたね。そこで沢山のことを学びました

 

 

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というわけで、次回からはバンギャルとインターネットの歴史に迫ります!

ぜひお楽しみに!!

 

 

 HPブームのあの頃からニコニコ動画まで ~バンギャルちゃんとインターネットの関係 蟹めんま×藤谷千明×ねとぽよ座談会(2/3) | ねとぽよ

 

 

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