覚えていますか。

 11月4日に、小説家のマッケンジー・ベゾスが、Amazonのカスタマー・レビュー欄で騒ぎを起こしました。

 

 夫であるジェフ・ベゾスの評伝のひとつ「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」(2013年・日経BP社・井口耕二訳:原題)に星一つを付けて、「ノンフィクションの一線を越えた」「数えきれない事実の誤り」がある「Amazonの人々や文化についての、偏っていて誤解を招く肖像」だと不評を書き込みました。

 著者ブラッド・ストーンは雑誌記者で、IT系大企業を得意の題材としてきました。不評を受け、USAトゥデイの取材に、「私は自作の側に立ちます。誤りがあるなら、喜んで修正します」「ガレージの4人から10万人超の従業員を要する会社になるまでの道のりは易しいものではなかった、という事実に対して、正しくあろうとした(tried to do justice)のです」と答えています。

 

 もちろん誤りは直すべきです。けれども実録物には真偽論争が付きものですし、無脚色のドキュメントを辛抱強く楽しめる読者はそう多くないでしょう。

 どこが誤り、偏っていたのか。憶測を避けるべく、「他の選択肢」を持っておきたいところ。そんな意図もあって今回は、Amazonとその創業者を知るための10冊を、さーっと紹介します。先週に発表した、この記事のフォロー・アップでもあります(ご感想ありがとうございました!)。

 

 Amazonは出版文化の「何を」壊すのか
 http://news.netpoyo.jp/2013/11/3063

 

 立ち読みだけでも、してみてくださいね。

 

Amazonをめぐる評伝――とにかくすぐ知りたいなら

 

 Amazonの新サービスの報道は多く、過去記事をいちから探すのは大変です。

 だからまずは、1冊の評伝を読むのがおすすめです。

 

ワンクリック ジェフ・ベゾス率いるAMAZONの隆盛

 彼の生い立ちや、Amazonのビジネスモデルが最適に記述されています。巻末の年譜も便利。

 

Amazonをつくったジェフ・ベゾス (時代をきりひらくIT企業と創設者たち)

 総ルビの児童書ですが、写真も豊富で、用語解説や参考文献も充実しています。2冊目にぴったり。

 

CEO OF THE INTERNET ジェフ・ベゾス、かく語りき(WIRED Single Stories 010)

 ジェフ・ベゾス自身が、Amazon.comの事業について手短に語っています。長文を読む時間が足りない方に。

 

アマゾン・コムの野望 ─ジェフ・ベゾスの経営哲学

 既作で言われた伝説や風聞の正否を問いなおしています。3冊のいずれかで“あらすじ”を押さえたあとに。

社内の声は?――書評編集者、広告コンサルタント、底辺作業員

 

amazonia アマゾン・ドット・コム成功の舞台裏 元トップエディターが語るアマゾンの軌跡

 Amazonが巨大書店へと成長する過渡期の貴重な証言であり、きわめて叙情的に書かれた、リーダブルな回想録でもあります。

 

アマゾンの秘密──世界最大のネット書店はいかに日本で成功したか

 著者は日本支社の立ち上げに広告・マーケティングコンサルタントとして関わった方。

 担当者たちの熱い盛り上がりや、米国本社のベンチャー精神の風化、カスタマーレビューキャンペーンの成功を振り返っています。

 

潜入ルポ アマゾン・ドット・コム (朝日文庫)

 Amazonの物流センターは、低賃金で労働者をこき使うひどいところだったと書いています。文庫版で追加された、マーケットプレイスの出品者インタビューも読みどころ。同趣の企画には、「どうやってアマゾン・カルトから“逃げ出した”か」()や、「「アマゾン物流センターの過酷な労働」BBCが潜入取材」()が。

関連書の出始めはビジネス・ストーリーが語られていた

 

アマゾン・ドット・コム

 最初期の著作だからか、邦訳は余白がきつく、記述もごちゃごちゃしていますが、山形浩生の威勢のいい解説が読めます。

 

アマゾン・ドットコム―驚異のウェブビジネス (ワールドビジネス・サクセスシリーズ)

 大きな見出しとふんだんなコラムで、“ビジネス・ストーリー”を読みたい人に。

 

 他にも、Amazonを別のIT企業と比べた本もあります。雑誌の特集も、両手では数えきれないほど。国立国会図書館サーチで「ジェフ・ベゾス」「Amazon」「アマゾン・コム」などと検索してみてください。気の利いた寛大な本屋さんなら、バックナンバーを集めているかもしれません。

 

「信じられない!」と大騒ぎする前に

 

ジェフ・ベゾス 果てなき野望―アマゾンを創った無敵の奇才経営者

 

 冒頭の評伝について、騒ぎが起きる3日前に、老舗新聞「NewYorkTimes」が、ジャーナリストのダフ・マクドナルドによる好評の書評を掲載していました。カスタマー・レビューも、今では好評が多数を占めつつあるようです。

 どうやら、ブラッド・ストーンはAmazonのビジネスと技術を書こうとし、マッケンジー・ベゾスはAmazonの人と文化が書かれていないと嘆いたよう。すれちがいですね。ノンフィクションの作法の曖昧さが、そのずれを際立たせたのでしょう。

 

 というのも、この数年、先進国中で、とりあえず「ノンフィクション」と呼ぶしかない、小説やビジネス書の枠を飛び越えた作風が流行しています。アメリカではウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ』、イギリスではウルフ・ホール『罪人を召し出せ』、日本では辻井喬『叙情と闘争』、野田秀樹『MIWA』と、実在の個人を扱った大作が盛んに書かれています。先月には、Twitter社の創業当時を描いた、ニック・ビルトン『Hatching Twitter』も発売されました。

 劇作家の岡田利規が『遡行』で指摘したように、現実とはさしあたって信じられているひとつのフィクションに過ぎないと考える創作者は少なくありません。2年がかりで、300人を取材したと言うブラッド・ストーンの著作が、そもそも何を狙って書かれた本なのかは問われていいでしょう。彼は、真実ではなく、作品を書いたのかもしれないのです。

 

 ただでさえ大きな会社です。Amazonをめぐる語りは、どうしても大声と大声のぶつかり合いになりがち。

「事実ではない」と指摘する声が埋もれては困ります。だからこそ、その声を丸呑みせずに、「では、何を誤ったのか」にも気を付けていたいですね。

 

 

[元記事はこちら]

ダフ・マクドナルド評:ブラッド・ストーン「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」 – NYTimes.com http://www.nytimes.com/2013/11/03/books/review/brad-stones-everything-store.html?_r=0

 

マッケンジー・ベゾス「この本を好きになりたかった」

http://www.amazon.com/review/R2I0T26SV0ELPP/ref=cm_cr_pr_perm?ie=UTF8&ASIN=0316219266&linkCode=&nodeID=&tag=

 

ベゾスの妻、マッケンジーがAmazon本の新作を批評

http://www.usatoday.com/story/tech/2013/11/04/amazon-book-bezos-review/3433373/

 

Amazonの創業者ジェフ・ベゾスの妻が酷評したAmazonノンフィクション本には一体何が書かれているのか? – GIGAZINE

http://gigazine.net/news/20131107-detail-of-the-everything-store/

 

 

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笠井康平

笠井康平

ねとぽよでは記者と編集のお手伝いをしています。

文芸誌「新古典派フィクションズ」の主宰で、ひっそり小説も書いています。

日本文学史とウェブカルチャーに詳しくなって、この国の歴史と文化の最適な記述法を編み出したい。