これから僕が語るのは、早稲田というローカルな場所、それも「早稲田的に」「意識が高い」コミュニティから見た「老害」の十年史である。ここで言う「老害」とは、「大学生活から一線を退いていながら、後輩たちにあれやこれやと影響力を及ぼせるほど、良くも悪くも求心力のある人」のことである。

 

そんなキミも老害になれる

 ただのOB・OGとはちがう。正規の権力構造の中にいないのに、多数の人間に影響力を行使できるからだ。就活を終えたばかりの奴も、何年も留年している奴も、社会人になったのに登校しちゃう奴も、多かれ少なかれみんな老害になる可能性を秘めている。他でもなく、僕も「老害」としてふるまっている。いまだに後輩たちと同じ部屋で暮らしているし、「ねとぽよ」にも現役早稲田の学生はいる。

 

 もちろん、ウザい老害がいるのは分かる。

 

でもほら、頼れる先輩がいると嬉しいこともありますよね!

 

 老害はなぜ生まれるのかを考えてみてほしいのだ。僕たち「老害」にとって、「昔、サークルにいた有名な先輩」という立場は、安心して所属できる天下り先である。一方、学生にとっては、大きなイベントや企画をやるのに、老害は必要な腕力の持ち主だ。

 文化祭や有名OBの講演のように、学外から人を何百人も巻き込むようなイベントは、サークル内で地道に伝統を築きあげるか、ノウハウを持っている人を頼まなければ、大抵の場合、失敗する。「老害」はそれを調達できる。たまにウザいが、役にも立てる。何か大きなことをしたい学生にとって、「老害」は、情報・企画力・信用を調達する源泉なのだ。学生も、年上の話を聞いたほうが参考になるし。Win-Winの関係は作れると思う。

 

語られざる老害とインターネットの歴史

 とまぁ、99%冗談みたいな記事ですが(笑)、当時起きていた出来事や、使われていたメディアをふり返ると、意外にも「老害力を行使する主体やその方法が変遷している」ことに僕たちは気づいたのです。この10年にウェブメディアが学生サークルにどう影響を与えていたかの、輪郭くらいは描けるかもしれない。

 

 今回は、僕を含めて4世代からヒアリングした。まず、企画サークル笑い飯」の創設者であるおぱんぽんさん(02年入学・06年卒業)。このサークルは、「サイゼリアのメニュー全部注文」や、「教祖誕生」「うまい棒祭り」など、早稲田のローカルなコミュニティでは知る人ぞ知るネタ企画サークルだ。おぱんぽんさんは現在でも、ロフトプラスワンなどで開かれた「無職説明会」、先日大きくバズった「うんこ味のカレー」イベントなどを行うイベンターとして活躍している。

  

雑誌作りからイベントまで、多彩な活動

雑誌作りからイベントまで、多彩な活動。

 

 次に、英字新聞会「The WASEDA Guardian」のOBで、第7代早稲田王の栗山さん(05年入学・10年卒業)。いまだに語り継がれる伝説の人物だ。現在はサラリーマンをしている。

 

お洒落なサイトです。

お洒落なサイトです。

 

 そして僕(07年入学・11年卒業)は、サークル社会の外部から、大学生活最後の年にTwitterからそのローカルなコミュニティに入リ込み、ひょんなことから早稲田祭2010のステージでふんどしを穿いて「男祭り」として踊るまでになった。

 

 

さらに、僕より下の世代の世界一即戦力な男」菊池良くん(10年入学14年卒業予定)。彼は早大生ではないが、その後の学生とソーシャルメディアを代表するような人間の一人だ。「笑い飯」にも出入りしており、例の就活も、笑い飯のメンバーの協力があったという。

 

ウェブドラマ化が発表されていましたね。

ウェブドラマ化が発表されていましたね。

 「世界一即戦力な男」菊池良さんをフジテレビがドラマ化 来年1月スタート – ねとらぼ

 

 この記事は、2002年入学~現役の4人が知りえた伝聞によるものだ。だから、遡ればさかのぼるほど、噂話や伝説が増えるし、話題の詳しさにも濃淡がある。そもそもが、都内のとある私立大学の、それも非常に限られた地域から見た歴史でしかない。したがって、「そうではなかった歴史」を知っている人もいるだろう。そういう人は、ぜひお便りをください。一緒に老害仲間になって、老害飲みをしましょう。

  

年表も作ってみた。

年表も作ってみた。

 

神話の時代――「老害」というハイアラーキー構造の中心

 昔々、と言っても10年以上前のことになるが、僕たちがまだ中高生だった頃、言わゆる「イベサー」の時代があった。学生たちが夜な夜なクラブでわいわいやっていて、イベントサークルには動員力もあったし、人気もあったそうだ。2003年に発覚したあの醜悪な事件が、あれだけ話題になったのもその一例だ。

 あの学生団体を取り仕切っていた彼の名前を仮に、Wサンとしよう。Wサンは、イベントの壇上で、高級スーツで司会をするスーパースターだった。売上も億単位に上っていたと聞く。彼は大学界隈でもっとも有名な「老害」だった。誤解を恐れず言うなら、彼は老害史における「神話の時代」の住人である。

 

 僕がいた大学の、イベサー文化の最盛期を生きた彼らは、なぜそれほどまでにすごかったのだろうか。大いなる謎ではあるが、僕達4人が話しあった結論は、個人に情報や人脈、資金を集中させることが、コミュニティの成長にとっても、効率がよかったからではないか、ということだ。まさに、ファンタジーの世界における、世界を統べる王のような存在だ。

 なぜ、そんなことが可能だったのか。それは、インターネットが、現在ほど社会化していなかったからではないか。確かに、当時も掲示板やサークルHPはあった。しかしグループウェア的な用法はなかったように思われるのだ。

 他方で、「当時のイベサーこそが、初めて大規模にネットを利用した団体だったのではないか。あれだけ大きければ、メディアのイノベーションにも敏感だったはずだ」という意見も出た。当時の大学生の娯楽に詳しい方がいたら、ぜひ教えてほしい。

 

メーリスの時代:ML人類補完計画が「老害力」を組織の資産に

 いずれにせよ、Wサンの逮捕によって、イベサー文化における「神話の時代」は終わった。あの事件がセンセーショナルに大きく報道され、イベサーは世間の攻撃の矛先になったのだ。ちなみに、そのとき、各団体に蓄積された人脈はまだ残っていて、いくつかの「学生団体」に流れているらしい……。怪しい噂は、僕の在学中にもあった。

 

 ところで、「イベサー文化」が盛り上がり、闇に消えていくのと軌を一にして、「意識」を高めていった学生たちもいる。

「早稲田リンクス」(1996年発足)や「学生シンクタンクWAAV」(母体団体「KING」が1996年発足)が典型例だ。90年代後半には、社会問題に関心を持つ学生サークルが、カリスマ性のある個人によって数多く設立された。

 

顔写真がいっぱい!

いかにも「意識高い」学生たち。

 

彼らは、「今を楽しみたかった」イベサー文化とは対照的な、「未来を変えたい」学生団体たちだ。彼らは求心力のあるテーマや使命を掲げて、同世代たちから視線や関心を集めるようになる。そこへ、2000年から日本でも起きたIT不況の余波で、情熱を注ぐ対象を探していた学生たちが流れ込む。その組織を、設立者やOBが「老害」として大きく育てていく。

 やがて組織そのものが知名度と実績を手にすると、参加者の固有名も実社会に広まっていた。しかしその効力は、学生団体の緊密なネットワークがあってこそ成立していた。だから今世紀の初めには、すべての情報と人脈と権限を持つ「老害神」は現れなかった。神は死んだのだ。そして「神殿」が残った。残された「老害力」を、彼らは毎年の代替わりで相続して「組織力」に変換した。それはやがて、コミュニティを大きくするために運用されてゆく。

 ここで決定的に重要だったのは、ちょうどこの時期に「メーリングリスト(以下、ML)」が学生団体レベルにまで普及したことだ。リストに登録したメンバーに、メールを一斉送信できるサービスだ。学生団体は、これを武器に、企画力や密なコミュニケーションを問われるような活動に乗り出していく。メーリングリストは、リアルのネットワークを強化・円滑化するものだ。使えば使うほど、クローズドなコミュニティが出来上がる。MLの普及が、老害力の希薄化と、組織力の向上を後押ししたのである。

 

mixiの時代:セルフ・プロデュースする「老害」たち

 もっともその頃は、ブロガー文化はまだ花開いていない。「はあちゅうブログ」が活性化するのも2005年あたりからだ。それですら、トラックバックが盛んだった時代で、クラスタ外への注目の広がりも、限定的だった。2ちゃんねるも、ブログも、個人HPも、メーリスも、「つながらない島宇宙に浮かぶいくつかの星」で、惑星の開発や横断にはコストと勇気が必要だった。その接続は、Twitterの登場を待つ必要がある。

 

 この頃生まれたmixiも、「個人」をフォーカスするより、「コミュニティ」を活性化するSNSだった。mixiが浸透していったことで、多くの学生たちは初めて「自分がネット上でどう見られるか」を意識するようになった。mixi内のコミュニティは自分を表すバッジみたいに使われ、僕たちはマイミクや足あと、コメントの数を競い合い、気合の入った自己紹介に力を注いだ。長文エントリも大量に書かれていた。ちょっとした評価経済社会が成立していた。

 MLやmixiを使った彼らの世界観は閉じていた。しかし、そこでのやりとりから生まれた、固有の空気や運営のノウハウなどは、リアルの人脈や資本に繋げられるくらいには高まっていたのだ。「老害神」は、コミュニティ運営上の必然からではなく、「こんな人がいたら面白い」という期待から、擬似的に生み出された。

 それを「老害」の側から見れば、SNSを通じたセルフ・プロデュースの時代の到来である。そのアーリーアダプタにして象徴こそが、僕ら4人の老害の中の一人、「早稲田王」にもなった栗山さんだろう。彼は冗談でmixiやリアルで「早稲田のドン」「俺こそが早稲田」と言い続けていたら、周囲が完全にそれを鵜呑みにし、サークル文化の外にいた僕でも知る有名人になってしまっていた。

 その人気を象徴するエピソードがある――ある年、早慶戦チケットの申し込み日に、ちょっとした案内の手違いから、1000人を超える群衆が学内になだれ込み、大変な騒ぎになってしまったことがあった。そのとき、なぜか生協のおばちゃんに担ぎ出されたのが、栗山さんであった。当時僕もその場にいたが、驚いたことに、彼の言葉にみんなあっさり従っていて、「この人は誰なのだろう」と大変に不思議だった。

 

ソーシャルメディアがやって来る!!

 とはいえ他方で、学生たちは大人しくなっていったのかもしれない。2010年に栗山さんが卒業したあとは、「主役不在だよねー」みたいな空気だった。その感じは僕もよく覚えている。コミュニティを盛り上げられる「主役」は、そう毎年現れるものではないし、トップの神感は、代替わりを経るにつれて衰える。「老害」は、卒業していく。

 

 しかしソーシャルメディアの到来が、そうした冬の時代を終わらせた。代表格は、もちろんTwitterだ。その最大の特徴は、その人の属する他のコミュニティまで丸見えになることだ。僕たちは、かつて繋がれなかった憧れの有名人のつぶやきも、目にすることができるようになる。

 そうなってしまえば、大学の先輩など、所詮は学生。どんなに偉そうに振舞っていても、憧れの社会人に比べれば、見劣りするのは仕方がない。僕はまさにこの時期に就活をしていたが、サークル内で先輩と情報交換するよりも、オンラインでの人脈を辿ったほうが効率的だ、という空気さえあった。

 この時期には、サークルという文脈から解き放たれた、多くの有名人や学生団体が登場した。僭越ながら、僕もこのビッグウェーブに乗って、名を上げた一人である。いま冷静にふり返ると、Twitterでの告知だけで、「意識の高い学生批判」のようなリアルイベントに100人が集まるなんて、ありえな。そんな奇跡が起こせたのも、この熱気のせいだ。僕は、まさにTwitterバブル期の終わり頃にすっと現れて、「意識の高い」学生批判をして、頭角を表しすことに成功した。このTwitterバブル期は、2010年から2011年くらいまで――つまり震災の日まで続いた。天国だった! この流れに乗れたやつが勝った。後発ながら、僕も「老害王」の仲間入りができた。

 

ねとぽよ象徴編集長・斉藤大地 雑誌「現代思想」に出現 – netpoyo広報ブログ

 

 ところがそれも、長続きはしなかった。就活と震災で、ソーシャルメディアが社会化していく。プライベートな集まりから、パブリックな交流へと目的が変わった果てに、学生が世間の注目を集めるのに必要なコストは、どんどん膨らんでいった。

 近藤佑子や「世界一即戦力な男、菊地良」を思い出してほしい。「ソーシャルに頑張って目立つこと」がすでにコモディティ化していたから、あれだけ手間のかかるウェブサイト作りをして、やっと彼らは職を得られたのだ。ソーシャルに頑張っても報われない、個人が沈んでいく時代……。

 それから先、現役の大学生たちが、LINEで何をしているかを僕は知らない。組織を生み出し、代表する人格が固定されないまま、大きな企画が進んでいくのかもしれない。平たく言えば、「迷惑な先輩のいないところで、面白いことができるようになるかもしれませんね」ということで、それはそれで寂しくはあるのだが。

 

教訓

 さて、このように歴史を振り返った上で、最後にひとつ。

 実は今回、歴代の「老害」をよく知る人たちと話し合うなかで、老害的なものが、再び活性化されるべき機運をひそかに僕は感じたのである。そして、老害力を高めるには、組織・メディアをうまく運用することに尽きる。それには、イベントを主宰すると手っ取り早い。というわけで、僕らは現在、「老害イベント」の開催を企画中である。

 僕は、良い「老害」は、大学を取りまく社会にとって必要な存在だと思う。そういう人たちを失笑するのはやめよう。結局のところ、何らかの団体や組合は、利権を共同分配するために作られる。だから、大学生協の書籍は値引きされ、試験の過去問は共有され、ゼミ飲みは交流の場になるのだ。でしょ?

 

 それに、天下り先がないと、がんばれないじゃん……。

 

付記:モザイクなしの年表が見たい、話題になったのは俺かもしれないと感じた方。近々開催の老害イベントにぜひ来てくださいね(笑)

 

 

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