『帝国魔導院決闘科』の製作裏話、公開。

『帝国魔導院決闘科』(以下、『決闘科』)とは、フリーゲームのwebコンテスト「WOLF RPGエディターコンテスト」(以下、ウディコン)に投稿された全87作品の中で、総合グランプリを獲得した作品だ。ウディコンは、1000人以上のユーザー審査員が投票を行う、大規模なゲームコンテストでもある。

『決闘科』は、パズル・シミュレーション・RPGの要素を持つゲームだ。「あらかじめ3ターン分の行動を宣言しておき、戦う」という、独特な戦闘形式「決闘」を設けている。これが結構、頭を使うのである。また、フレーバーテキスト――敵キャラクター一人ひとりにまつわるエピソード――が設けられていて、アドベンチャー要素も含まれている。 

 

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帝国魔導院決闘科のDLページ

 

この『決闘科』を制作したのは、「川崎部」という団体だしかし、ウディコンの入賞で注目を浴びたにも関わらず、その正体は謎のヴェールに包まれたままだこの取材は、「川崎部」のゲーム制作の裏側を暴くインタビューとなったのではないか。今回は、「川崎部」の早川雪子さん、りるむるさん、メイベルさんの三人にお話していただいた。

 

  • 早川雪子さん:『決闘科』ではシナリオ、イラストの一部を担当。
  • りるむるさん:同作、ゲームシステム、バランス、音楽を担当。
  • メイベルさん:同作、テストプレイヤーを担当。

 

3時間ものインタビューの中で、「川崎部」がゲームバランス調整に命を賭けた集団であることも明らかにすることができた。製作段階のゲームデザイン資料やラフイラストも掲載許可を頂いたので、ところどころで紹介していきたい。

 

【聞き手・斉藤大地、poroLogue】

ウディコン1位の「川崎部」はテーブルゲーム好きの集団だった

「川崎部」は本来は非電源系ゲームのサークル

――「川崎部」のみなさん、ウディコン1位の受賞、おめでとうございます! まずは「川崎部」が、どういった団体なのか教えてください。

りるむる 「川崎部」は、もともと非電源・テーブルゲームをプレイする集まりだったんです。いつの間にか、ゲーム製作をはじめとして、テストプレイやバランシング(ゲームバランスの調整)もするようになりました。「川崎部」を設立してから7年ほど経ちましたけど、今でも、非電源ゲームを中心に遊んでいます。

メイベル 僕たち、バランシングが好きなんですよね(笑)。これは『決闘科』の話ではないのですが、以前、川崎部に「カードゲームを作ったよ」と持ち込まれたことがあって、「よーし、バランシングするか!」と意気揚々と部員が集まってきたんですよ。その日から、1日に約4-5時間使ってバランシングする日が週に2回、それを約4ヶ月もの間、続けていました。150時間くらいかけて、バランシングをしましたね。そこで、「このカードはなんで使わなかった?」「逆に、このカードはなんで使った? 強いの? 弱いの?」とひたすらにディスカッションを行って、強すぎるカードは弱体化し、弱いカードは強化する……という作業を、ひたすら続けたんです。

 

―― 4ヶ月間のディスカッションですか!

メイベル いやー、本格的なバランシングの時間としては全然足りてないですよね。調整としては本当に必要最低限で、このラインを切ると正直不安です。

 

――『決闘科』だけでなく、日常的にゲームバランスにこだわっているのですね。「川崎部」がゲームバランスを重視する団体であることが分かる、いいエピソードでした。

りるむる ゲームバランスは、本当に力を入れてこだわった部分です。『決闘科』に関しては、ゲームバランスを完成させてから作りました。

(編集注:上の話は『決闘科』ではなく、別のカードゲームのバランシングに関するものです。『決闘科』のそれに関しては、下に詳しく書いてあります。ゲームバランスに使用した紙を掲載しました)

 

――最近、非電源ゲームの感性がデジタルゲームに取り入れられていると感じています。『艦これ』もそうですね。『決闘科』もそこは意識していますか。

りるむる そうですね。デジタルゲームに非電源ゲームの要素を入れようとする流れは、まだ少ないと思ったので。「川崎部」は非電源ゲームを中心にプレイしてることもあって、強みになったのではないでしょうか。

 

決闘科はどのようにして生まれたのか

――『決闘科』は独特なゲームシステムと評価されていますが、これはどうやって思いついたのでしょうか?

早川 ルールのほとんどは、世界観をゲームに落とし込むときに出てきたんですよね。

りるむる わたしの頭の中ではゲームシステムがイメージできていたので、とりあえずゲーム化してみました。この作品は世界観がベースになっているんです。”決闘科”は、「刹那的エンターテイメントを提供するための学科」と位置づけています。この設定を貫くには、プレイのテンポが重要になってくるんですよ。なので、「決闘」のルールは、先に3ターンを決定しておくシステムにしました。

 ちなみに、3ターン縛りにした理由は、1ターンだとジャンケン以上の広がりが出ないけど、5ターン以上になると、思考時間が必要になってしまうんですよね。そこで、間を取って3ターンを選んでいます。

 

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『決闘科』の画面はこんな感じ、キャラもかわいい

 

――世界観からシステムを設計したのですね。

りるむる そうですね。ちなみに、『決闘科』の比較対象として『ランナーズ・エクリプス』というゲームが挙げられるのですが、その頃はまだそのゲームを知らなかったんです。なので、少しは斬新なゲームになったと思い込んでいたんですが、皆様のコメントを読んで、気のせいだったことが分かりました(笑)。

『決闘科』は、『カルネージハート』を超簡略化したとも言えるし、往年のCGIゲームの流れからも説明できます。結果として住み分けはできていたらしく、評価を頂けたようです。プレイヤーのみなさんに楽しんで頂ければ、それ以上の喜びはありません。

 ただ、実はウディコンの開催時期を勘違いしていたんですよね……(笑)。インターフェース関連が恐ろしく間に合わせでリリースになってしまったのが何とも申し訳ないです。

 

決闘科のキャラクターについて

「精霊乙型」の作中キャラクターのラフイラスト

 

――キャラクター作りは、どんなふうにされたのですか?

早川 出身国・個性・人間性などを平均的に割り振って、作っていきました。パズルみたいにやったので、事務的作業感がすごかったです。16種類くらいの性格の基礎を作ってから、キャラクターの生い立ちや性格を変えることで、差別化しています。国単位で、キャラクターの性格を変えることで、世界観を表現したり。細かい工夫から作っていきました。

 

作中キャラクターである「貴族」のラフイラスト。

 

――かなりシステマチックに落とし込んでいった形なんですね。

早川 そうなんですよ。製作者としては、類型化されたキャラクターを作り上げているだけなんです。でも、「キャラクターがいきいきしている」と感想をもらうことが多いことには驚きました。キャラクターがいきいきしていると見えるのは、プレイヤーの方の感受性や蓄積、想像力の豊かさがあるからだと思います。このへんはウディコン終了後の謝辞でも触れたので、こちらを読んでみてください。

 

第五回 WOLF RPGエディターコンテスト総合グランプリ1位獲得謝辞

 

明かされる「川崎部」のゲームバランシング活動

ゲームバランスは一枚の紙に

――ゲームバランス調整はどうやっているんですか?

りるむる 決闘科の数値の観点からのレベルデザインについては、この紙一枚で終わっています。

「川崎部」で実際にゲームバランスに使用された紙を見せていただきました!

 

りるむる この紙だけではよく分からないと思いますが(笑)、ゲームバランスはこの紙一枚で済ませています。これを見ながら、各キャラクターのステータスを考えていきました。他には、「自作攻略本」を作って、敵キャラに2~3パターンほど攻略法を作りました。下位から順番に撃破してもいいし、下位を倒すために上位から攻略してもいい――こうやって、攻略の自由性を高めています。

 

――自由度については、CEDECでも「メルセデスメソッド」などが話題になりましたね。「複数のストーリーラインがあって、そのどれから手を付けてもいい」というゲームデザインですね。

 

[CEDEC 2013]海外で盛り上がる「ナラティブ」とは何だ? 明確に定義されてこなかった“ナラティブなゲーム”の正体を探るセッションをレポート

 

製作に役立つ!ゲームバランスの方程式

――ちなみに、みなさんの考える、ゲームバランスの「キモ」となる部分はどこでしょうか?

メイベル 「報酬」です。プレイヤーの行動に対して、どう評価され、報酬が与えられるか。『決闘科』だったら、頭を使わずに回数をこなすと、パラメータが上がるという「報酬」があります。逆に、頭を使って効率的に攻略すると、周回数は短くなる。考えた分の時間はかかるけれど、クリアまでの時間が結果的に短くなることが「報酬」になるんですね。

りるむる もっと簡単に説明すると、キャラクター好きのプレイヤーは、「ストーリーの先を見れる」「キャラクターと話せる」ことが「報酬」になると思います。実際に、『決闘科』には「好感度イベント」のようなものを取り入れました。このあたりは、『ウィザーズハーモニー』や『悠久幻想曲』などのコンシューマゲームに影響を受けました。

 

――たしかに、キャラと会話イベントはとても楽しかったです。報酬と工程の理想的なバランスを数値化した「黄金比」はあるんですか?

りるむる 究極的には「1工程1報酬以上」でしょうか。『決闘科』では、「剣術」のステータスを鍛えるとき、「ボタンを1回押す」という工程によって能力値が上がるようにしました。10の工程を操作したときに、返ってきた報酬が4しかないと、「期待はずれ」「やって損した」と感じるじゃないですか。そういう気分にさせない工夫をしています。

 このゲームは、対戦相手を倒す工程に負荷を高めているんですね。だからこそ、対戦相手からの報酬は『ステータスの上昇権利』『術技』『情報』『キャラ』『シナリオ』『フレーバー』などは、操作した以上に受け取れるようにしました。

 

――プレイヤーによって、「報酬」だと感じるかどうか、差があると思うのですが。

りるむる 何を報酬とするかは「どんな人をターゲットにしたゲームなのか?」という『題材』と相談した上で決定するといいと思います。ターゲットでない皆さんのことはダイナミックに留保しましたね。

 ちなみに、『決闘科』の技習得時のフレーバーテキストは、演出画面の余白が余ってたので付け加えただけなんですが、予想以上に人気で驚きました(笑)。

 

――最近は、『フレーバーテキスト』はもっとも大きな報酬の一つ、とも言われていますからね。

メイベル ソーシャルゲームといえば、『憂国の大戦』というソーシャルゲームのパラメータ作りが面白いですね。

 

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オンラインカードバトル「憂国の大戦」のHP

 

 デッキを作って戦うカードゲームですが、数字に対して凄く厳格なゲームなんです。カードのコストと能力値の総量が同じになるようデザインされているんですね。たとえば、能力値のなかでも、HPとAGI(速さ)は上昇しやすい。AT(攻撃力)は、それらと比べ上昇するのに3倍コストがかかる。DEF(防御)にいたっては6倍もコストがかかるようになっています。

 このゲームのルールを考えると、「防御が10高い」よりも、「HPが60高い」方が、比較的有利だと思うんですね。ただ、それでも防御のコストが6倍になっているのは、防御がガチガチに高くて一切攻撃を受け付けない状態を「コストかかってるから当然でしょ」と思わせるためだからだと考えています。でも、攻撃する側からしたら、防御が強すぎて全くダメージがないと、徒労感を感じると思うんですよ(笑)。この徒労感を発生しにくくするために「6倍」とハードルを高く設定したんでしょうね。

りるむる 『決闘科』も、この徒労感を防ぐために、普通のパラメータの半分だけ引き継ぐようにしました。

 

――かなり研究をされているんですね。ここまでゲームバランスを厳密に言語化できるゲームサークルは、とても少ないと思います。やはり作っていく中で、勘所を言葉にできるようになったのですか?

メイベル 僕はゲームはプレイするだけで、ゼロから「作る」ことはやってないです。ゲームバランスの骨子が既に出来上がってる中で「どうすれば良くなるか?」をアドバイスしてきたことが活きてるのかな。

りるむる 実は、わたしはゲームバランスの推敲がとても苦手なので、メイベルさんに助けてもらっています。『決闘科』も、いままでのメイベルさんの助言を元に、机上でバランシングしました。

 

――二人の強みを活かして、『決闘科』のゲームバランスは出来上がったんですね。

メイベル ただ、ゲームバランスを厳密に突き詰めると、考えたことに対する結果は出やすくなるけど、何も考えずボタンを押したことに対する結果は出にくくなるんですよね。やりすぎると、ゲームのハードルが高くなるのに反比例して、初心者が勝ちにくくなるんです。集客力が減っちゃうんですよね。なので、ゲームバランスを突き詰めた作品を出すことを、『Magic: The Gathering』の説明文にひっかけて「このルールをゲームに実装したとき、あなたは3の集客力を失う」と表現してます(笑)。

 

(後編に続く)

後編はこちらになります!

ぜひご覧ください。

ウディコン1位作品『帝国魔導院決闘科』制作の裏側に迫る――ゲーム制作集団「川崎部」に1万字インタビューしてみた(後編)

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他にもウディコン紹介記事を掲載しています。ぜひ、お読みください。

 

 

 

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