大学受験も、いよいよ国公立大学の後期試験を残すのみ。昨日、国公立大学を受験なさった皆さんは、お疲れ様でした。筆者は某大学のセンター足切りにかかって国立前期試験の日は何もすることがありませんでしたが、今も元気に生きています。どうか頑張ってください。

さて、3年前のこの時期、日本の入試の歴史に残る事件が起きました。

“京大入試でカンニング!”と新聞やテレビなどのマスコミはもちろん、ネット上でも話題になったあの事件――「大学入試問題ネット投稿事件」です。試験の最中に、ケータイで問題の一部を「Yahoo!知恵袋」に投稿し、その回答を記入するという、現代的でムダのないカンニングの手口が世間を震撼させました。2012年には、このネタを煽る垂れ幕でTwitterで話題になりました。

 

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(京大から受験生へのメッセージが熱すぎる!より)

 

私はこの事件を見て、小学生のときに読んでいたある漫画を思い出しました。そう、「別冊コロコロコミック」(小学館)にて連載されていた、毛内浩靖さんによる漫画作品『カンニンGOOD』です。

 

カンニンGOOD 第1巻―究極カンニング漫画 (てんとう虫コミックス)

 

件のカンニング事件が世間を揺るがしたとき、かつてのコロコロ少年たちは「現実が『カンニンGOOD』に追いついた!」と思ったことでしょう。連載から19年経った今、インターネットを手にした私たちはどれほど完人に勝てるのでしょうか! 懐かしい思い出と一緒に、『カンニンGOOD』を振り返ってみましょう。

 

「カンニンGOOD」ってどんな作品なの?

主人公の満天完人は、カンニングで100点を取り続けている小学6年生。表向きは学年きっての優等生で通しており、もともとスポーツも得意なのでクラスの人気者です。外面は満点の彼ですが、学業は全てカンニングというクズっぷり。

 

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このイントロダクションからもう、ロクでもない人間の匂いがプンプンします。

 

マックじいというおじいさんの発明品である「ケッシーくん」(消しゴム型超ミニパソコン)や「みみんばーくん」(耳型トランシーバー)などを使って、数々の試験を乗り越えてきました。

 

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 読み返すと、懐かしいシーンがたくさんありました

 

しかし、改めて振り返ってみると、物凄い発明だと思っていたマックじいのカンニング手口も、ほとんどがケータイ一台で事足りるようになっていますね……。2011年の「大学入試問題ネット投稿事件」も使ったものは携帯のみです。この事件のwikipediaには、事件の手口が次のように記されていました。

 

単独犯であり、椅子に座ったまま左手で持った携帯電話を股の間に挟んで、監督官から見えない状態で問題を打ち込んで投稿したことが判明した。また、数学の記号等については、予め辞書登録をしておいて変換で呼び出して記入した。

wikipediaより)

 

たしかに、連載開始から19年も経った今、完人のカンニング技術はiPhone一つでこなすことができるかもしれません。しかし、それでも私が完人のカンニング魂に心打たれるのは、カンニング事件のaicezukiと満天完人の間に、大きな違いがあるからだと思うのです。それは、aicezukiが「大学に合格したい」という至って真面目な動機でカンニングを試みたのに対し(少なくともマスコミにはそうした人物像が報じられていました)、完人はカンニングそのものに対する美学と一種のプロ意識を抱いていたからです。

 

カンニングに命まで賭けられる男・完人

 完人はカンニングに、命をかけています。コミックス4巻に収録されている第20話が一番印象的なので、ご紹介します。

小3の壱弐野三郎(いちにのさぶろう・以下サブ)は、ささいなことで教師と口論になった末「明日の漢字テストで100点取れなかったら卒業まで便所そうじ」という賭けをすることに。カンニングでもしないと満点なんて取れないサブは、完人にテストを手伝ってくれるよう頼みます。

試験当日、完人は校舎向かいのビルの屋上から、スケッチブックなどを使ってサブを助けるも、雨に滑って、そのスケッチブックを落としてしまうのです。相当に危険な状態であるにも関わらず、身を乗り出す完人。

 

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手が届いた瞬間、雨で手が滑った完人はビルから落ちてしまうのです。そんな状況でも、自分の体を張って最後の一文字を伝えた完人でしたが、サブはいてもたってもいられず教室を飛び出しました。彼が落ちていった場所に駆けつけると、そこには血まみれの完人が横たわっていると思いきや……。トランポリンに着地し、血はケチャップで演出した完人がいました。彼はカンニングのプロフェッショナルとして、その厳しさを教えるために、命がけで一芝居を打ったのでした。それ以来、サブは改心し、完人をアニキと呼んで慕うことになります。

他にも、完人そっくりに擬態した宇宙人と、己の存在をかけてテストで対決をする回もありました。いつでも完人は、命がけで戦うのです。この対決は、宇宙人が「<ユウジョウ>をたしかめる」を埋められず、完人の勝利となります。宇宙人は「友情」という概念を知らなかったからです。

まさに山あり谷あり、波瀾万丈のカンニング人生。彼は一体なぜ、カンニングにここまで熱意を傾けたのでしょうか。

 

そもそも、カンニングとは何なのか

カンニングを英訳すると「cheat」と呼ぶように、カンニングはいわばチート行為です。完人たちは、チート行為で試験という「ゲーム」に望んでいるわけです。実際に、私たちがテレビゲームでチートをしてみると、最初は全能感が味わえて楽しいですが、だんだんと虚しくなっていってしまうのが常。普通に自分の実力を試した方がおもしろかったりします。

それと同様に、テストもカンニングに血道を上げるよりは、その手間をかけて勉強した方が効率がよかったりします。カンペ作ってたら覚えちゃった、とかよくある話ですよね。aicezukiも、あんな大胆にカンニングしたにもかかわらず、結局京大には合格できていなかったことが、それをよく示しています。ものすごい速さでガラケーを入力できたようですが、結局aicezukiのカンニングは目的を達成できませんでした。その上、逮捕までされてしまって「割に合わなかった」と言えるでしょう。

しかし、完人たちの凄みは、「試験」はほとんど目的ではない点にあります。私も含め当時の読者の多くは、カンニングという「ゲーム」に没入していた彼に、何らかのピカレスク性、およびヒロイックなものを見出していたのではないでしょうか。『カンニンGOOD』は別冊コロコロ連載作品でも抜群に人気の高い作品で、小学生が興奮するのも納得です。

きっと今にして思えば、チートよりも、TASに近いものだったのかもしれません。TASはツールを使って、スピードを競うことです。

 

 

スーパープレイヤーの方がわかりやすく尊敬されますが、ツールによる『理論上可能なプレイ』と分かっていても、TASの常軌を逸したプレイを見ると、僕たちは興奮し、コメントを連打してしまいます。目的化した強みが、ここにあります。完人も、カンニングという行為自体に陶酔していたのです。

これは、現在人気を博しているマンガ作品『坂本ですが?』や『となりの関くん』にも通じる所があるように感じています。

 

坂本ですが? 1 (ビームコミックス)

となりの関くん 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

 

日常のさりげないことやちょっとした遊びを、「才能の無駄遣い」と呼ばれるように行う――そんな真の意味の「遊び」に人は惹きつけられるのでしょう。人間を「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)」と呼んだおっさんもいるくらいです。

そうかんがえると、完人とマックじいは、大学受験のあともプロフェッショナルカンニングマンとして生き続けていたのかもしれません。案外、TAS実況とかやっているかもしれませんし、ニコニコ技術部とかにいたらおもしろいですね。

もちろんカンニングは真似してはいけない行為ですが、そんな子供のころのちょっとマイナーなヒーローのことをaicezukiのカンニング事件のお陰で思い出しました。あんな真面目なaicezukiの未来にも、そのような「遊び」を楽しめる未来が待っているように願っています。

 

 

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山中貴幸

山中貴幸

1989年生まれ。平成生まれの懐かしカルチャーマガジン『REPLAY』の編集。「コミックボンボン」「コロコロコミック」、90年代テレビゲーム、NHK教育アニメを中心に執筆も行う。
アニメ・アニソン界隈でライターもやっています。声優やアニソンアーティスト名のライブに行くのが趣味。陰性のオタク。