先日、BUMP OF CHICKENと初音ミクがコラボした『ray』スペシャルバージョンが配信され、話題をさらいました。

 

 

 僕はこのニュースを知ったとき、嬉しくてつい「両手を叩いて笑って」しまいました。インターネットにハマり始めた10年前のことを思い出し、興奮を抑えられなかったのです。

 今年で25歳になる僕の青春時代は、BUMP OF CHICKENとFLASHで出来ているといっても過言ではありません。ダイヤルアップ回線特有の長すぎるローディング時間に10分近くも焦れ通し、ようやく再生された『天体観測』のFLASH――ここでバンプと出会ってしまったことで、僕にとってのネットと音楽の世界は決定的に変わってしまいました。

 

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『天体観測』のFLASH

 

 中学では座った席のすべてに歌詞を写経しては、これを見たヤツに「いい歌詞だな」と思わせたい、あわよくばあの娘がそう思えばいいな、とゲスい下心全開で布教を試みました。『リリィ』や『車輪の唄』の歌詞を、付き合ってすぐ引っ越してしまった「最初で最後の」彼女と重ねて、悶えたりもしました。

  バンプを「おセンチで青臭い厨バンド」呼ばわりする人もいると思いますが、僕にとってバンプの歌詞は力ある神聖な言葉であり、間違いなく人格の一部なのです。聴くほどに考えさせられ、語りたくなるパンプの世界観に魅了されて、僕はバンプFLASHをもっと見たいとネットにのめり込んでいきました。

 ……しかし、今でも分からない謎があります。なぜ、友達とバンプを語ることがあんなにも楽しくて仕方がなかったのか。どうしてバンプFLASHだけが「爆笑系」や「感動系」と並ぶ単独カテゴリとして、特別扱いされたのか。ググってみても、納得のいく答えは出てきませんでした。

 こうなればもう、やるべきことはひとつ。ネットの海へダイブして、10年前のログやデータを拾ってくるしかありません。僕は2chのFLASH板を漁りながら、自分のバンプFLASHとの思い出を振り返ってみました。バンプに青春を捧げたあなたにも、懐かしいあの頃を思い出しながら読んでいただければ幸いです。

 

バンプFLASHを育んだ熱狂の歴史

 

 本題に入る前に、まずは2000年代初頭のFLASH事情を振り返りましょう。当時はまだ動画サイトなどはなく、高速なブロードバンド接続も普及していませんでした。そんな状況で、流行り始めたのがFLASHです。『オラサイト』『ムネオハウス』『ゴノレゴシリーズ』といった傑作が生まれて、専門のニュースサイトは常に賑わっていました。「音と映像を同時に楽しめ、遊べる」手段として、ネットサーファー(死語)たちの間にも人気は広まり、その勢いはついにひろゆきを動かすこととなりました。2chに「FLASH板」という伝説的な場所をも新設させるほどの盛り上がりを見せていたのです。 

 その頃の僕は、両親を必死に口説き落としてゲットしたノートPCで、徹底的にFLASHを漁りまくっていたものです。ビンラディンを撃ち殺すゲームに興じたり、『小小系列』で棒人間が決める超絶アクションにシビれたりと、部活が終われば宿題もせずにネット三昧。その結果、月末が来るたびに「この電話代はどういうことだ!」と怒られるハメになっていましたが、その程度でやめられるわけがありません。

 さて、バンプFLASHムーブメントの発信源は、そんな「FLASH板」にあります。すべての始まりは2002年の5月30日に立てられた『☆BUMP OF CHICKENのFLASHきぼん☆』という、クレクレ君が立てたスレッドです。

 

『☆BUMP OF CHICKENのFLASHきぼん☆』

 

 当初はバンプの知名度が低かったこともあり、糞スレ認定されて、「それおいしい?」「ケンタッキーかよ」などと書き込まれる有様でした。しかし>>13に神が降臨し、歌詞が表示されるだけの『k』FLASHが投下されたことで、流れは大きく変わっていきます。

 

『k』のFLASH(※ 該当のFLASHが発見できなかったので別のものです)

 

 この投稿に住人たちは「感動した」と書き込みを連ね、駆け出しの職人が「俺も作るぞ!」と宣言するようになります。こうして、バンプFLASHスレは途中経過の報告と期待のレスで一気に加速していき、熱を帯びていきました。そこにうpされたのが、『ダンデライオン』の完成版です。

 

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『ダンデライオン』

 

 僕はリアルタイムでスレの展開に立ち会ったわけではありませんが、『ダンデライオン』はAA版も自作絵版も「あの悲しくも暖かいストーリーが形になっている」という一点だけでもうたまりませんでした。このFLASHを見た住人たちも「(・∀・)イイ!!」「泣いた」と称賛の声で湧き上がり、職人も「作って良かった。お前らもバンプも大好きだ」と応える――バンプFLASHは『ダンデライオン』と『k』を火種にして、誘爆的に作られることとなります。

 その勢いはおよそ半年あまりの間にスレ内で「難易度A」と評された『天体観測』や『ハルジオン』のFLASH化が実現するほど。絵師と職人がコラボした『リリィ』などの「名作」も生み出していきました。

 過去ログを漁って、まず僕が感じたのは「この流れ、ニコ動でもよく見るな」という既視感でした。ひとつの作品から次々に関連作品が生み出され、加速度的に多くの人へと拡散されていく。そんな散発的な繰り返しから膨大なコンテンツが生まれ続け、インターネットを楽しくしてきたと思うと、何やら感慨深いものがありました。

 ちなみに、FLASH黄金時代の真っ最中だったこともあり、バンプ以外のアーティストの曲を使ったFLASHも、もちろん相当な数が作られていました。しかし、今でも残っている「FLASH倉庫」を見る限り、「音楽系・歌系」ではなく、単独カテゴリとして扱われているアーティストはバンプだけです。それ以外はいわゆる「歴史系」FLASHのBGMや、空耳・替え歌といったネタのダシに使われることが多く、そもそも曲やアーティストをテーマにしたFLASHはかなり少なかったのです。

 

特攻兵器「回天」がテーマの歴史系FLASHで、森山直太朗『さくら』がBGMになっている。

 

 では、なぜバンプFLASHだけがこんなにも突出した扱いを受けられたのでしょう――その要因は「テレビに出演しなかった」ことと、「解釈する楽しみが大きかった」ことの二つが挙げられると思います。

 

「マイナー感」と「解釈」の愉楽

テレビに出ないなら、ネットに行くしかないじゃない

 

 まず、多くの人にとって、BUMP OF CHICKENは「『天体観測』のバンド(※1)と認識されがちでした。シングルを出せば、オリコン5位以内にランクインする人気と実力があるにも関わらず、なぜか奇妙なマイナー感が漂っていたのです。

 その原因は、バンプが様々な思惑から「地上波のテレビ番組に登場しない」方針をとっていたからでしょう。教室で「Mステ」や「うたばん」の話題からバンプの名前が出てくることはなく、CMやアニメ・ドラマとのタイアップも非常に少ないものでした(※2)。ブラウン管でバンプを見たければ、お金を払ってCS放送を受信するか、公式PV集を買うしかありませんでした。ああチクショー、焦れったい。だからこそ、僕はTVで満たせない「バンプが見たい」という欲望をFLASHにぶつけていました。

 

 そうして自分がハマったあとは、語る友達を作るべく熱心に布教を試みていたものです。情報の授業で友達にバンプFLASHを見せては、心の中で密かに「Welcome to underground」と囁いていました。机に書いた歌詞も着実に規模を広げていきます。布教活動の効果があってか、気付けばバンプを語れる同級生は増えていきました。

 友達に「『アルエ』って実は綾波レイの歌なんだぜ!」「『ベンチとコーヒー』は藤君がマジで公園のベンチに座ったときの経験から作られたんだぜ?」「「バンプのCDには必ず隠しトラックが入ってるんだぜ? お前もう聴いた?」などとドヤ顔で語っていました。「俺はお前よりバンプのことを知ってる。お前より俺の方がバンプのことをもっと好き。さあ、負けを認めろ」と暗に主張しました。逆に、こういう裏話を友達から聞かされると負けた気がして悔しかったけど、ネタはちゃっかりいただく。で、知らないヤツに話してドヤ顔をする。うっわ、ウゼぇこいつ。

 とにかく、意外と気に入ってもらえる期待値は高く、「自分だけがバンプを知っていたんだぜ」なんてレア感まで味わえた。電子の砂漠をうろつく陰気なネット厨房にとって、バンプはまさにチャンスでした。最初のうちはネット仲間同士で「フヒヒ……」と話り合っていたバンプのエピソードや曲の「解釈」を、いつの間にかサッカー部のメンバーたちにも耽美に語るようになっていたのです。

 たとえば『天体観測』は、一体どんな曲でしょうか。終わってしまった昔の恋の歌かもしれませんし、離れ離れになってしまった幼なじみとの真夜中の冒険を回想しているようでもあります。「崩れるほど重なった」手紙に「宛名」がないのは、送る相手がもうこの世にいないからともとれますし、ただ居場所がわからない可能性も大いにあります。

 こうした「解釈」レスの応酬は、バンプFLASHスレでもしばしば起こっていました。同じ曲のFLASHでも「解釈」の違いが露骨に出ます。自らの言葉でもって「解釈」するためには、まずバンプの曲を深く聴き込まなければなりません。「解釈」という難業を乗り越えて、職人たちが作り出した魔法の薬こそがFLASHでした。

 

ネットで「僕たち」が作ってきた音楽の到達点

 

 このように、バンプFLASHはインターネットの一時代を築き上げ、また、僕を含めた大勢の青春に寄り添ってもきました。そのうちにFLASH黄金時代は終わってしまいましたが、僕はいつまで経っても、あのときの楽しさを忘れられませんでした。受験勉強を犠牲にしながらニコニコ動画に入り浸り、ボカロ曲を漁りまくったのも、2chのとあるスレに書き込まれていた「面白いものがあるぞ」というレスに釣られにいったからでした。

 大好きな曲が「描いてみた」「歌ってみた」「演奏してみた」「踊ってみた」と様々なジャンルへ誘爆していったり、「ニコニコ超会議2」で『カゲロウプロジェクト』や『マトリョシカ』や『千本桜』のコスプレをして誇らしげに歩く中高生たちを見たりすると、FLASHを追いかけていたあのときの興奮を思い出すのです。

 そんなところにブチ込まれた大事件こそが、BUMP OF CHICKEN feat. HATUNE MIKUバージョンの『ray』リリースでした。僕にインターネットで音楽を楽しむ方法を教えてくれた、新旧の流れが名実ともに合流を果たした到達点だと考えています。

 ちなみに、この曲で初音ミクの打ち込みを担当したkzは「高校の頃、毎日のようにグングニルを聴きながら朝日を浴びて自転車を漕いでいた自分に自慢したい」と語っていました。

ナタリー – BUMP OF CHICKENが初音ミクとコラボ、デュエット曲配信

 こうした事件は10年後か、もしかしたらそれよりもっと後に再び起こることでしょう。僕は、とりあえずネットで「イマというほうき星」を追いかけながら、その時を楽しみに待っていくつもりです。

 

※1 『ROCKIN’ON JAPAN』2013年8月号掲載のインタビュー「BUMP OF CHICKEN 初のベスト盤! メンバー4人が語る、バンプの全歴史」にて増川弘明(Gt.)が「覚えてるけど、バンプ・オブ・チキンがとにかく”天体観測”になってたんですよね、当時僕らの呼称というか。どこ行ってもそうだったし、(中略)世界を広げてくれたし、お客さんを広げてくれたし」と、当時を振り返っている。

※2 Youtubeが設立された2005年までにあったBUMP OF CHICKENのタイアップは、『天体観測(TVドラマ)』『ONE PIECE THE MOVIE デッドエンドの冒険(劇場版アニメ)』『テイルズ オブ ジ アビス(ゲームソフト)』の3つのみ。

 

(了)

 

 

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ヒューマンダスト☆ハッピー

ヒューマンダスト☆ハッピー

ついこの間まで24歳学生だった、懐古気質の脳筋ネット厨房。
90’後半〜00’の子供時代を「楽しく」取り戻すカルチャーマガジン『REPLAY』編集部員。
深酒のアテはインターネット。というか人生のだいたい半分はインターネット。
現在求職中。早く人間の鑑になりたい。